…… 挿し絵

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 …… 挿し絵

e01cae50-01b4-4660-a2af-f15b92fc6b64 「……おい、おっさん」 「一応村上先生って言うか、ハルキって呼んでほしいんだけど」 「知るか。お前、あのこと絶対勝行に言うなよ」 「それ。年上の、仮にも教師に対してお願いごとを頼む時の態度かねえ」 不敵に笑う晴樹は光の鋭い眼光にもドスの効いた低音ボイスにも動じない。 はああと盛大にため息をつくと、光は保健室のベッドに寝転がった。 「だいたい、なんで保健室にお前がいるんだよ」 「光くんならきっとここにいるだろうと思ってね。ああ、撮影班なら今お昼休憩に行ったよ」 「んなこた、聞いてねえ」 教師として潜入するのなら、ちゃんと教師らしく勉強だけ教えていたらいいのに。この男は何かにつけてすぐ自分の目の前に現れる。代理講師はよっぽど暇な職業なのだろうか。 (これ以上勝行に嘘つきたくねえのに……コイツの名前出すだけで機嫌悪くなるからな……) 「素直に言えばいいのに。ゲイセックスがどんなのか気になって、僕たちと勉強会してたって。別にやましいことないさ。ぶっちゃけ、光くんは勝行くんとシたいんでしょ。そのための勉強じゃん」 「んなこと言ってあいつが納得するわけねえだろうが!」 「隠すよりはましだと思うけどなあ。だって光くんはぬるぬるローションと指だけで散々イッちゃったもんな。乳首もアナルも超・敏感♡の一級品。かわいかったよ」 「うるせえなあ、いちいち内容言うな!」 「浮気疑われたら、嫉妬してくれるんだぁ♡って喜んで飛びついたらいいんじゃん。本番はヤってないし、あんなのオナニーと一緒だって。そんでそのまま光くんがリードしちゃえば、一気にゴールインできるって。がんばれがんばれっ」 「他人事だからって適当ぬかすな、変態教師がっ」 相手に隠し事される方が傷つく――それは自分もそう思っている。だから光は頭を抱えていた。正直な話、全部包み隠さず言ってもいいのだ。そうすればきっと、晴樹がキレた勝行にボコボコにされるだけなのだから。ただ最近の勝行からは不穏な空気が漂っていて、言いにくいだけで。 「俺の身体……何ともないかって再会するたびいちいちチェックするし。どこにあんのか知らねえけど、俺に位置情報がわかる発信機つけてるらしいし。ドがつくほどの心配性なんだよ……お前のことも場合によっちゃブッ殺しそうな勢いだし。なにより……もっかいあいつが出てくるかも……」 「あいつって?」 「……ああ、いや……」 病的なまでの過保護。ストレスが溜まると腹を壊す神経質な性格。受験勉強のせいか、最近特に苛立っているようで、彼の体調不良は一緒に住んでいればすぐに気が付く。たまには毒抜きしてやらないと……と思うのだが、今はどこに居る時も撮影班が間に入ってくるのでなかなか二人きりになれない。充電のハグも、挨拶のキスもお預けばかりだ。光は顔を両手で覆い、目を閉じた。 (あの性格悪い方の勝行は、ストレスが溜まったら出てくるのかと思ったんだが……違うのかな。だいたい、怒ってる時に出てる気が) 「つーか発信機つけてるって。どんだけ束縛しいなんだよあの子。ひっどいね、光くんの人権は無視かい? そんな風に縛られて生きて、君は本当に幸せなの?」 ない頭を捻って懸命に考え込んでいる最中だった。ぎし、とベッドが不自然に揺れ、身体に不自然な圧がのしかかる。晴樹の声がうんと近く――耳元で聴こえてきた。 「君を守るための発信機? そんなのは欺瞞だよ。本人の同意なしにやればただのプライバシー侵害。愛情でもない。――ただの、彼の自己満足だ」 「……は?」 「束縛彼氏なのはうっすら気づいていたけど、この首の噛み跡といい、君の先日の具合の良さといい……いいように騙されてるね、光くん。正直、あの子と付き合うのはやめた方がいいと思うよ。もっと自分を大事にしなさい」 何を言っているのかわからない。光は身じろぎしながら眉をひそめた。 それでも晴樹は横になった光の身体を嬲るように見分し、首筋のキスマークを見つけて撫でる。それから左耳にだけつけたシルバーカフスのピアスに触れ、カリカリと音立てながら傍で耳打ちした。 「今もこのピアスを通して盗聴してるかもね、相羽勝行くんが」
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