最新AI マッチンGood〜♪

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 追加できる6項目は、設定されている選択肢から選ぶ形ではなく、なんと自分自身でフリーワードで設定できるらしい。しかも漠然としたワードよりも詳しければ詳しいほど精度が上がるらしい。そんな事をして本当に相手を特定可能なのか?そう不審に思ったが、150円課金しているのだから好きにやらせて貰おうと開き直り、自分にとって大切な要素を考え始める。  すぐに思い浮かんだのは、「優しい」ところ。相手が優しいかどうかなんてマッチングアプリの利用データからどうやったらわかるのか想像は付かなかったが、要求するだけはタダだ。ただ優しいと書くだけでは漠然としているので、「渋滞が原因で旅行が事前の計画通りに進まなくて不機嫌になった時、またもう一回来ればいいじゃんと優しく声を掛けてくれる」とした。  具体例を考えながらその他にも重視する項目を追加していく。次は「声が良い」こと。具体的には、「声が低くてゆっくりと象みたいに喋る」だ。次は、「少しバカな事」。たとえば、「トイレットペーパーのダブルのことを、シングルの2倍の長さがあるからダブルだと思っているような人」。次に思い浮かんだのは、「単純なところ」だった。具体的に言うとするなら、「テレビに2人で行った事がある場所が映っただけで、見て見て!と大喜びするようなところ」か。  段々と思い付かなくなってくるが、折角課金したのだからあと2つは追加しなければ損してしまうと考え無理矢理捻り出す。思い付いたのは、「カッコつけていても時々方言が出てしまうところ」。くすぐったいことをこちょばしいと言ったりするところ。ここまででだいぶ苦しくなって来たので、試しにこの段階で一度、検索範囲を東京都内に設定して何人候補が表示されるか試してみたところ、5人表示されたので驚いた。5人に共通していたのは地方出身ということくらいで後はバラバラなような気がしたが、全くのタイプ外という人は1人もいなかった。むしろ、見た目やプロフィールだけでも何となく好意を持てる相手だった。おしなべて写真写りが良かったり、プロフィールが充実しているな、とは思ったが、流石最新AIと言うべきか。  残るは最後の1項目だが、悩みに悩んで一番最後に付け足したのは、「普段は僕に対してあれしろこれはするなと必要以上にお節介焼きをしてくる心配性のくせに、自分の事になるとシャツを裏返しに着て出掛けたりしょっちゅう傘を忘れて来たり肝心な所が抜けていて結局お互い様なところ」とした。最早1項目とカウントして良いのかすらわからないが、色々考え過ぎて少しハイになっていたのかもしれない。何はともあれこれで全項目の入力が終わった。自分だけの12角形のグラフを形作り、検索範囲を指定して、検索結果表示のボタンを押す。  すると画面には、 「あなたの運命の人は、ここには表示出来ません」 というメッセージが出た。  ふざけるなと思い、全身の力が抜けた。どんな条件を入れても1人は候補が出てくるのでは無かったか?途中から、真剣に相手を探そうという気持ちよりも、こんな無茶な条件を指定したら一体どんな結果が表示されるのかを見てみたい一心で条件を入力していたのに、こんなのはアリなのか。それが全くのタイプ外だったとしてもそれはそれで面白いだろうと思ったのに、0人とは最悪のパターンだった。だったら今までのこの時間は何だったのか。  そう思っていると、次にこんなメッセージが表示された。 「あなたの入力条件は恐らく、あなたの近くに実在する特定の誰かの特徴のようです」 「ここには表示できませんが、運命の相手は1人だけいます。それは、あなたが今心に思い描いているその人です。」  狐に化かされた昔話のおじいさんはきっとこの時の僕と同じ表情をしていたと思う。とんちで言いくるめられた気分だった。これは詐欺なのか?だとしたら、被害額は500円で済んでよかったと考えるべきか。いずれにしろこんな答えが聞きたいわけではなかった。  何より、途中から気付いていたのに気付かないふりをしていた事実を日の元に晒されたようで、絶妙な不快感を味わわされた心地になった。言われなくたって十分すぎるほどわかっていた。理想の相手の条件を考えれば考えるほど、しかもその条件を出来るだけ具体的に考えようとすればするほど、和哉との5年間の思い出が蘇ってくるばかりで、その洪水から頭を出して息をするのに精一杯だったからだ。もっと条件を出せと言われていたら、例えば奥二重の小さな目とか、薄い眉毛とか、長所ではなくそういった単なる和哉の特徴でさえ上げ連ねていたと思う。僕らは長い時間を過ごして、お互いがお互いの面倒を見てあげているつもりで、お互いがお互いを自分がいなければ相手が困ると思っていて、その生活は少し、温か過ぎたのかもしれない。  暫くして僕はその画面を消して、スマートフォンをしまった。目を上げるとそこには、テレビを熱心に見る和哉の後頭部が見えるだけだった。 「今週のアド街、この間行った日本橋だって」 そう言いながらこちらを振り向いた和哉の顔を、僕は何故か直視する事が出来なかった。
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