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今回の転勤の件で何よりも僕の和哉に対する不信感を増長させたのは、彼が僕に一言の相談もなく上海行きを承諾していた事だった。サラリーマンだからよっぽどのことがない限り内示には逆らえないのはわかっているし、彼が海外で働いてみたいといっていた事も知っていたが、それでも何か心が動く事はなかったのだろうか?だって僕らがもし男女だったら、海外転勤を機に結婚して、僕は会社を退職するか休職するかして和哉に着いていくのが一番オーソドックスなパターンなのかもしれない。そうして2人異国の地で肩を寄せ合いながら過ごし、いつの日か子供を授かるのかもしれない。でも僕らは男同士で、とてもじゃないけどそんな選択肢は考えられないのだ。
そんな内容を正直に和哉に打ち明けた時、和哉は、不安にさせたならごめん。でも、週末を使えば帰って来れる距離ではあるし、お前もこっちに遊びに来たら良いし、時差も1時間だから毎日ビデオ通話しても苦にならないだろうし、俺は大丈夫だと思った、というような内容を伝えて来て、僕はそれに頷くことしかできなかった。何のことはなくて、きっと和哉には、別れるという選択肢自体が浮かんでいなかったのだ。だから上海行きを決めるのにも躊躇いが無かったのだ。
「それにさ、どう頑張ったって俺らは男女にはなれないし、一般的でオーソドックスな幸せを掴む事は出来ないよ。だけど、だからこそ俺らだけが目指せる、他の人には作れない幸せの形があると思う。てか、そうでも思わないとやってられないし」
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