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2828年
部屋は無数の本棚に埋め尽くされ、床という床に書物が敷かれていた。
壁に掛けられた無数の燭台。その炎に照らされた長卓の上には、風精霊の羽や焔蜥蜴の尾などが並び、やがて始まるであろう魔術への備えをしていた。
部屋の片隅には、白墨で描かれた円陣があった。
円陣の中央には九芒星。それを囲むように描かれた魔法文字。
そして円陣の中に立つのは、これより魔術を始めんとする魔術師であった。
ーーAchmia rrinia rrunua nepnua……ーー
彼がその腕で杖を振ると、円陣は淡い青色に輝き出した。
魔術を取り扱う際に杖は欠かせない。魔術の元となる魔力は、実態を持たない曖昧な存在。呪文を介してこの世界に顕現させることはできても、「何に作用させるか」「どの方向に向かうか」を細かに指示するのは、自分の気持ちをそっくりそのまま、他人に伝えるよりも難しいことなのだ。
ーーAchmia rrinia rrunua nepnua……ーー
故に杖は、形を持たぬ魔力に「方向」を与える為の道具となる。
サンザシ、ハシバミ、ヒイラギ。材となる木はなんでもいい。呪文によって発現した魔力は杖に宿り、魔術師の示す向きに放たれて作用するのが基本。
ーーAchmia rrinia rrunua nepnua……ーー
最もそれは、呪文の持つ力が魔術師と対等、若くはそれ以下の場合。
手に余る力とは、如何なる場合でも最悪の結果を呼ぶものである。その摂理は円陣の中で詠唱をしている魔術師にとっても、決して他人事ではなかった。
ーーAchmia rri……っ‼︎ ーー
円陣の色が急激に変化し、魔力の流れが変わる。
現れた色は赤。性質は青とは真逆の「破壊」。
彼はそれでも呪文を続けようとしたが、時既に遅し。円陣の許容範囲を超えた呪文の力は鮮烈な閃光となり、薄暗い部屋を所狭しと埋め尽くす。
やがて閃光が消えた時、白墨で描かれた円陣は無惨にも崩れていた。
部屋中に立ち上る淀んだ匂い。彼は暫く呆然と座り込んでいたものの、この惨状のままではいかんと思ったのだろう。曲がった腰を忌々しそうに上げると、散らかった瓶や書物を片付ける為に足を動かし始めるのだった。
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