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城が近づき、灰かぶりの胸は高鳴ります。あの方と再会できる!あの方と結婚を誓い合った時に借りた、母の形見のヴェールを身に纏い、胸をときめかせていると、とうとうお城に到着しました。
〜〜〜〜〜
『な、何だあれは!』
『いやっ、気味が悪いわ!』
舞踏会へ来た客がざわついている。何があったのだ。騒ぎの方へ駆けつけると、そこには、城には不釣り合いな、ガリガリに痩せた馬が引くぼろぼろの荷車が停まっていた。ちょうど荷車から人が降りてこようとしている。最下層の使用人のような、ぼろぼろのワンピースを着た、痩せた女だ。頭からは薄汚れたヴェールを被っている。ハンカチで口元を覆いながら、声をかける。
「……一体何の用でこの場所に来た?今宵は舞踏会の日、すぐに消えれば咎めはしない。早くさ」
私の言葉を遮るように女が話し出す。なんて無礼な奴だ。
「っ、あ、あの!わた、私、ーーです!……お会いしたかった…っ!」
女が意味不明なことを言いながら、近づいてくる。
「ちっ、近寄るな!衛兵!」
「あの、幼いことお会いして、結婚の約束をーーやっ、はなっ…し、きゃあ!」
結婚?何を言っているんだ!お前のような下賤なものと結婚など!あの子でもあるまいに!
「お前のような者など知らぬ!この者を城の外へ捨ててこい!」
女は衛兵に連れられて去っていく。何だ今のは。親しげに話しかけて……ゾッとする。本来なら投獄すべきだが……まぁ、いい。今日はあの子に会えるはずだからな。きっと美人になっているはず。約束は覚えているだろうか。
〜〜〜〜〜
どうして……魔女さまの魔法はすごかった。舞踏会に参加できるような姿だったのに、どうして?どうして、あの方はわかってくれなかったのでしょう……。私が変わりすぎだからだろうか……。でも、あの方が好きだと言ってくれた、この髪と目の色は変わっていないはず…なのに……どうして?
灰かぶりはとぼとぼと月明かりしかない道を歩きます。衛兵に連れてこられ、置き去りにされたので、ここがどこかわかりません。しかし、屋敷に帰らなければならないのです。衛兵によって無理矢理引きずられた時に痛めた、右腕と左足を引きずるようにして、歩いていると、10時を告げる鐘が鳴ります。
灰かぶりは痛む足を懸命に動かしてとうとう、見知った街までやってきました。街と屋敷の間の川を越えようとした時、遠くで12時を告げる鐘が鳴り始めました。ちょうど月も天上にあって、川には灰かぶりの姿がくっきりと写っています。
そこには、ぼさぼさのうす墨色の髪にぼろぼろのワンピースをまとった少女がいました。そして、鐘がなり終わった時、水面には同じ格好で、菫色の瞳の美しい少女が変わらず写っていました。良く見れば美しい、その少女の白銀の髪は煤で薄汚れ、目や頬は痩せて落ち窪んでいます。灰かぶりは絶望します。
あぁ、私は何で愚かなんだ。魔女なんかの言うことを聞いて、あの方に近づいて……それに、何だこの姿。例え、魔法があったとしても、こんなぼろぼろの灰かぶりなんかが「王子様」を想うなんて……身の程知らずだったんだ……
その晩、灰かぶりが屋敷へ戻ることはありませんでした。
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