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『聞いたか?』
『あぁ、殿下の想い人だろう?』
『あぁ。どうも侯爵殿が不在の間に……』
『それで気を病んで……』
心無い囁きが耳につく。咎めたいところだが、そんな気力もない。あの子が死んだ。
舞踏会の日、結局あの子と会うことは叶わなかった。あの子に会いたくて、侯爵家の者へ声をかけたが、そんな子はいないと言われたのだ。
そんなはずはない。そう思って翌日、侯爵家を訪ねる途中、川沿いに人々が集まっていた。人死にがあったらしい。可哀想にと馬車の車内で祈り、立ち去ろうとしたその時、聞こえた。
『白銀の、キレーな人だってよ。』
『それじゃ、あの貴族様の……』
まさか……
急いで馬車から降りる。突然馬車から降りてきた貴族に民衆がざわめき、道を開ける。その時間すらも惜しいと、声を荒げる。
「ど、どいてくれ!」
人が引いた道の先に、人が横たえられている。小柄な、少女。
川から引き上げられたその人物は、あの子だった。可哀想なほど痩せて、目はとじられていて見えない。しかし、きっと美しい菫色のはずだ。成長して可愛いというより美人になった。でも間違いない、あの子だ。なぜ……目についたのは身に纏ったヴェール。昨夜、あの薄汚れた女が持っていたもの。もしや………あれは……。
それからどうしたのかわからない。気付けば全て終わっていた。
あの子を虐げた奴らは全員処刑した。私の評判などどうでもいい。彼女の美しい白銀と菫色が脳裏にちらつく。なぜ?なぜ私はーー
何度も自分に問いかける。しかし、あの子は、もういない。心優しく美しいあの子は、もう、いないのだ。
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