ルーチュカ・ルーチュカ

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郊外にあるとある学園。 広大な土地を有する特殊な学校には、特殊な生徒たちが通っていた。 ヒトでありながら、他の動物のたましいをやどして生まれた不思議な存在。 その中でも特に、広い草地を必要とする動物のたましいを持ったもの。 彼らのための特殊な学園の学生寮の門に、少年がひとり人待ち顔で立っていた。 高等部の制服すがたの背の高い少年だ。 何度か寮の方へのびた道をうかがうと、ついに、むこうから小柄な人影が歩いてくるのが見える。 セーラーカラーの中等部の制服。彼は少年に気がつくと、ちいさく手をふった。 少年もそれに応えて軽く手をあげる。 と、彼は小走りで少年に駆け寄ってきた。 「おはよう、ほづまくん」 「おはようございます、けいかくん」 背の高い少年は、青野秀眞(あおのほづま)といった。 高等部1年。 さらさらの長めの茶髪。黒目がちな瞳。その長身ゆえにたいていの相手は見下ろすようになるので、少年らしからぬ威圧的な表情になりがちだ。 馬のたましいを保有し、馬耳と尾を持っている。 小柄な方の少年は、筧恵歌(かけいけいか)という。 中等部2年。 白いふわふわの髪。橙色みがかった瞳。小柄で色白な少年だ。 鶏のたましいを保有し、背中にちいさな羽と、先の黒い尾羽を持っている。 ふたりは種も年齢も違ったけれど、バイト先で知り合って以来すっかり仲良くなって、いっしょに登校もしていた。 合流したところで、学校へ向かう道を歩き出す。 「ほづまくん、元気ない?」 ほづまは背が高いので、けいかはどうしても見上げるようになる。 ただでさえ大きな瞳がこぼれ落ちそうだ。 「今日は競馬の日なので」 「そっか。ほづまくん競馬嫌なんだよね」 「はい──」 ほづまは特別科目に“競馬”をとっている。厳密にはとらされている。 そこで“競走馬”になるための訓練をしていた。 両親ともに“競走馬”で、父方の血筋がそこそこよいので、ほづまも活躍を期待されているのだ。 けれどいかんせん、本人にまるでその気がない。 「走るのは好きなのに」 「ただ速さを競うだけとか、退屈で」 「そうかー。でも今日はお天気がいいよ。雨よりはよくない? 雨だとぬれちゃうし、どろどろになっちゃうし。競馬って雨でもやるんだもの。たいへんだよね」 「そうですね。でも、ダートはすこし湿っている方が走りやすいです。乾いていると砂っぽいので」 「あー。そうなんだ」 「それに、雨の日に芝を走ると水飛沫がたつんですよ」 「ふふ。それはちょっといいな」 けいかがふわっと微笑むと、ほづまもつられてやさしいきもちになった。 彼が笑ってくれるようなことを言えたときは、どこか誇らしいような気がする。 「けいかくんも今日バイトありますよね」 「うん」 「僕もなので、終わったらいっしょに帰りましょう」 「うん。いいよ」 午後。日暮れも近いころ。 学園からすこし離れたところにある神社が、ふたりのバイト先だった。 社務所のわきの置石には、巫女服のけいかが座ってなにかを食べている。 そこへ、裏手からほづまが戻ってきた。 和弓と矢をたずさえ、弓道衣すがた。長めの髪は後ろでひとつに結わえている。 けいかは巫女さんのバイト、ほづまはそのうちにこの神社で催される流鏑馬神事の練習をしていた。 「ごくろうさまー」 「なに食べてるんですか?」 「こんぺいとう。もらったんだ。食べる?」 「はい」 けいかはこんぺいとうのパッケージをふって、数粒をてのひらに出し、差し出した。 「どうぞ」 緑、ピンク、白。 ほづまはすこし考えてから彼の手首をとって、その手ごと舐める。 「わっ」 「ごちそうさまです」 「自分で食べてよー」 けいかはくすぐったそうに笑った。 「けいかくん、いいにおいですね」 ほづまはまだにぎったままのけいかの手首に鼻先をつけた。 こんぺいとうを口の中で転がしながら言う。 「さとうのにおいかな?」 「じゃなくて。きみのにおいです」 「なにそれ」 手をとりもどしたけいかは自分でもにおってみるけれど、特に変わったにおいは感じなかった。 「わかんない」 と、小首をかしげる。 ほづまはそれを見て、ただうっそりと微笑んだ。 着がえを終えて、ふたりは歩いて帰路についた。 帰り道はほとんど住宅街で、閑静だ。 「おなかすいた──」 そうつぶやいたほづまは心なしかちいさくなって見える。 「ほづまくん、たくさん食べるものねえ」 彼は背が高いだけでそれほど体格がよいわけではなかったけれど、なかなか健啖家で、特に甘いものが好きなたちだった。 今日は競馬の授業と流鏑馬の練習で二度運動をしているので、消耗が激しいようだ。 おやつを買うためコンビニに立ち寄ることにする。 店内に入ると、ほづまはまずお菓子の棚で「カール買ってあげます」と言った。 「いいの?」 けいかはコーングリッツのおかしが好きだった。 「こんぺいとうを分けてくれたお礼に」 「そんなにたくさんあげてないよ。もらったやつだし」 けれどけいかはそのとおり彼にカールを買ってもらって、ふたりはコンビニを出た。 ほづまはレジ袋にいっぱいのおやつを手にして、アメリカンドッグをかじっている。 「ありがとう」 「どういたしまして」 と、ほづまはけいかのそでをひいた。 「もうちょっといっしょに遊びませんか」 「いいよ」 「うちに来ます?」 「うん。行く」 学生寮の生徒用の部屋は、ベッドと学習机でほとんどいっぱいのちいさな一人用の部屋だった。 基本的なつくりはどの生徒のものも同じで、私物によって多少雰囲気が違って見えるものの、どこも大きな差はない。 ほづまの部屋にはあまり物がないので、より無機質に見えた。 そのほづまの部屋。 さっきまでは買ってきたおやつを食べながら楽しくおしゃべりなんかしていたはずなのに、今やけいかは側臥位でベッドに押し倒されていた。 どうしてこうなったのかあまりよくわからないまま、衣服は乱され、自分でもたいして触ったことがないような器官をあばかれ、男のものをねじ込まれようとしている。 「もう、やめて──」 「そちらに逃げないでください。きれいな羽が傷ついてしまいます」 彼は今自分がなにをしているのか忘れたように、ひどくやさしく言ってけいかの羽を撫ぜた。 「こわいよ……」 「泣かないでください」 なだめるように、鼻同士をすり寄せる。 それからくちびるをあわせた。 「キスするの好きでしょう」 短いキスを何度も繰り返す。 「けいかくん、いいにおいですね」 と、首すじのにおいをかいだ。 「い……っ」 強く力を入れると、ついに先端がぬるりと入り込んだ。 しかしそう多くは入らない。 ほづまはけいかのうるんで揺らめく瞳を見つめた。目をすがめ、その涙をぬぐう。 「痛いですか?」 「くる、しい……」 けいかは声を出すのもやっとという風情で言った。 「はい。すごくきついですね。けいかくんちいさいから。さすがに先の方だけで精一杯ですけど」 ほづまはそのかわいそうなちいさな少年のひたいをていねいに撫ぜる。 「でもしあわせです。けいかくんとつながれた──」 彼は、心底うれしそうに微笑んだ。 けいかが一瞬、今の状況を忘れてしまうようなうつくしい笑顔だった。 「けいかくん体温高いですね」 ほづまはうっとりとつぶやいて、ゆっくりと浅い抽送をはじめた。 深いところまでいかないのはもどかしいけれど、入り口でひっかかるのがいい、と感じた。 「排泄にしか使ったことない総排出腔を男のペニスで擦られてるきもちはどうです?」 そう言って、やさしい顔でにこりとする。 「よく感じてくださいね。これがトリにはない、ケモノのやり方ですよ」 中を擦られるごとに、けいかは短くあえいだ。 ほづまはその様子を、まるで歌うようだな、と思う。 彼は歌がうまくて、きれいな声をしているのを知っていた。 あとでのどあめでもあげなくてはいけない。声がつぶれてしまったらかわいそうだもの。 なだめるようにキスを繰り返す。 彼はけなげに応えてくれた。 舌を噛まれる。その力は弱く、たわむれのようで、ただ愛しい。 徐々に中がぬかるんできて、彼が苦しいばかりじゃないのだとわかってうれしかった。 「イキそうです」 耳もとにくちびるを寄せ、ささやく。 「中にたくさん出しますから、僕の子を妊娠してくださいね」 「ぼく、おとこだからぁ」 けいかは泣きそうな声でうったえた。 「もちろん。でも僕たちは、ヒトとは違ういきものですよ」 吐精し終わってもすぐには抜くことなく、そのままの体勢で、ほづまはいつくしむようにけいかの腹を撫でた。 おなかあつい──と、けいかはぼんやりと思った。そんなことはないとわかっていても、ほんとに妊娠しちゃうのかもしれないというきもちになる。 でもそれはきっと困ってしまう。自分も、彼も、きっと困ってしまうのだ。 ふと気がつくと、ほづまは静かに泣いていた。 なんだかとてもかわいそうになって、精一杯手をのばして彼のあごをつたう涙にふれた。 翌朝。 けいかが学校へ行こうと寮の部屋のドアを開けると、ほづまが立っていた。 うなだれて、長い前髪にかくれた表情はよく見えない。 「僕を嫌いになりましたか?」 と、しぼり出すような声で言った。 「なってないよ」 「怒っていますか?」 「怒ってたよ。ちょっとね。でも、もう怒ってない」 「よかった……」 彼はやっと顔を上げた。今にも泣きだしそうな表情をしていた。 「ごめんなさい」 「うん。ぼくはもう怒ってないけど、でも、黙ってあんなことするのはいけないことなんだからね」 「はい。今度は事前にちゃんと言います」 「や、言えばいいわけでもないけど……」 ほづまは一歩前に出て、おずおずとけいかの手をにぎる。 「僕にそんなこと言う権利はないのはわかっているけれど、ほんとうに、お嫁さんになって欲しいんです」 「うん──知ってるよ」 けいかははげますようにその手をぐっとにぎり返した。 「ぼくはたぶんきみの子を産んではあげられないけれど、お嫁さんにもなれないかもしれないけれど、ほづまくんとずっといっしょにいてあげるからね」 ほづまははじかれたように彼の愛するちいさな少年を見た。それから腕をのばし、ぎゅうと抱きしめる。 「お願いします」 「うん」 彼はこう見えてだいぶ力持ちなので、すこしだけ苦しい。けれどけいかはただ、彼の背中をやさしく撫でさすった。 「学校行こう。遅刻しちゃうよ」 補足: カールが全国で買え、コンビニでレジ袋がもらえる、しあわせな世界にしておきました。 あと、鳥と馬の子供ってペガサスなのでは?と思いました。ペガサス、とてもよいです。アリコーンだとなおよい。
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