宇宙船デラ

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宇宙船デラ

世帯用小型宇宙船デラは別名「夫婦船」と言われて広く市場に出回っている。 この宇宙レジャーボートは小さいながらも量子テレポーテーション機関を搭載した本格派の恒星間宇宙船で自給自足可能な完全閉鎖循環環境を維持できる。食料と水は機関部の大統一場理論炉(GUT)より無尽蔵に得られる。反物質フィルターの調整次第で希少金属や有機物質も得られるため少量ながら兵器開発すら可能とカタログが謳っている。炉心の寿命は主観時間で百年。設計限界では350光年まで航続距離が広がる。デラの初期モデルが展示されてから人気が高まり今では恒星間レジャーの定番モデルになっている。宇宙の大航海時代が一段落し個人が宇宙船を所有できる現在では居住性を高めた家族向きの製品が星の数ほど製造されている。 二人だけの理想郷を作ろう。広い庭と南向きのマイホーム。車が二台は停められる駐車場があって軽自動車とキャンピングカー。週末は海山で過ごしたい。 「いいえあなた。地球は狭すぎる。厄介な毒親の来ない場所に住みましょう」 「君、それ本当かい」 と、いうやりとりがあって二人はいまカジキ座にいる。テスは低温なM型矮星。サイズは太陽の四半分程度で表面温度は半分。 テス四号星の自転周期は地球時間で37日。しかも潮汐ロックがかかっている。これは母星に近すぎるために自転と公転周期が一致する現象だ。四号星は常に同じ面を母星に向けている。宇宙不動産屋に騙されて地雷物件を買ってしまったのだ。 アレスとベティの口論は小一時間続いている。「昼間が二週間も続くような星に住めとかあんたバカ?」 ベティはかんかんだ。アレスは「買っちまったもんはしかたないだろ!」 だがベティは譲らない。今すぐ返品しろの一点張り。夫はキャンセルを申し入れたが簡易テラフォーミングキット込みでの販売なのでクーリングオフできないという。キットは惑星ごとにカスタマイズされ開発費もかさんでいる。 「使用済みのキットは返品できませんよ」 しかたなくアレスはGUT炉から資材を集めて別の道を探った。しかし 二人は宇宙の大航海時代にタイムマシンの開発を諦め、四号星の外で生活を始めた。スペースデブリによる環境劣化を防ぐために真空環境の惑星となった。 「宇宙船は小さいが心は広大だ!今は何が危険だ?」 窓の斜め上半分を四号星が占めている。アレスは宇宙船をステーションに改造している。 そして艱難辛苦を乗り越えてテス四号星に開拓キャンプを設える準備を整えた。明日から人口たった二人の街が始まる。
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