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ようやくホッと出来る時間が取れ、風も気持ち良く吹いている午後。
私は、散歩に出かけることにした。
長めの休みがあるたびになるべく帰省している私は特に散歩しながら昔を懐かしむこともなかったが、なんとなく子供の頃のそんな懐かしい思い出に足を運び始めた。
ザリガニ取りをした池などはすでに埋め立てられ新しい住宅地が出来ている。普段なら気にしない町の変化も思い出と重ね合わせながら歩くと心が揺さぶられる。
あれこれ思い出の場所を歩いて行くとうっそうとした森に進む小径。そこだけうっすら人が通っている跡がある。
「たしかこの小径。『誉』さんに通じる小径」
呟いた途端に目の前に昔のままのあの光景が映りこんできた。
そして、懐かしさで暖かな空気に包まれたと思った途端、靄で目の前が真っ白になった。
なに、これ??
恐るおそる一歩ずつ歩みを進めていくと、背筋がぞくぞくする冷気と共にうっそうとした木々の中にいた。
「はっ、早く戻らなくちゃ!!」
急いで振り返っても今まで来たはずの道はなく、まるで黒い森の中にはまりこんでしまったような錯覚に陥る。
辺りを見渡しすぎてすでに今来た方向もわからないのでパニックだ。
「だめだめ・・落ち着いて。大丈夫、絶対大丈夫」
徐々に息苦しさと胸の圧迫感が迫ってくる。
「ど、どうしよう・・・・」
聞こえていた木々が語り合う音も、風の音も消えた。
目の前が真っ暗になり私は意識を失った。
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