いち

1/1
前へ
/3ページ
次へ

いち

「ねぇ、ママ。門のむこうにおんなのひと、いるよ? ちいさいこもいる」 「奈々ちゃんのママたちかな? 準備しなきゃ」  2年前に越してきた建て売りの我が家は、テレビのあるリビングから門扉が見える。  インターホンを押す前に誰がいるのかわかるので、結構便利だ。  娘の愛美(まなみ)は窓から外を見て、誰か来ると得意気に教えてくれる、ちょっとおませな女の子だ。  今日はママ友である、奈々ちゃんママが子供連れで遊びに来ることになっている。  私はエプロンを外すと髪をさっと整え、玄関に向かった。そろそろインターホンを押す頃合いだ。 「あーもう、こんなに脱ぎ散らかして!」  まばらに抜き散らかされた家族の靴を片側に寄せ、お客様が靴を脱げるスペースを確保しながら、玄関の扉を開けた。 「いらっしゃーい!」  インターホンの音はまだ聞こえてこなかったが、一番仲良しの奈々ちゃんママだ。真っ先に出向かけてあげたい。インターホンを鳴らす前に開けたら少し驚くかもしれないけど、悪い気はしないだろう。お互い悩み事から日々の生活のことまで、何でも話し合う仲なのだから。 「あれ? いない」  
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加