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 扉を開け、門のほうを見たが誰もいない。門の近くまで歩いて行き、ポストや近くの電信柱辺りまで行ったが、それらしい人はいない。 「おかしいなぁ、愛美のみまちがいかな?」  家に戻ると、娘は人形で遊んでいた。 「ねぇ、愛美ちゃん。誰もいなかったよ?」 「もう門のむこうにはいないよ。あっちにいった」  人形で遊びながら、窓に向かって指を指した。 「なんだ、お客様じゃなかったのね」  たまたま通りかかった人だったんだろう。私はさして気に止めることなく、家事に戻った。  ほどなくして、奈々ちゃんママが子供連れでやってきた。門のむこうに見慣れた姿を見ると、なぜだか嬉しくなる。 「奈々ちゃんママ、いらっしゃい!」 「お招きに甘えて子連れで来ました〜。ドーナッツ買ってきたから皆で食べよう」 「わ〜ありがとう。気を使わなくてもよかったのに」 「だって舞美ちゃんと、愛美ちゃんママと一緒におやつ食べたいって、この子もいうから」  脇に立つ奈々ちゃんが、照れくさそうに笑っている。娘の愛美より少し背の高い奈々ちゃんは、色白な美少女だ。可愛い人形が好きな娘とよく気が合い、仲良く遊んでいる。娘の友達のお母さんとママ友になれたのは、幸運だった。 「ねぇ、少し前に家に来た?」 「来たのはついさっき。なんで?」 「ううん、何でもない」  やっぱり愛美の見間違いだったのね。だったら「いらっしゃい!」なんて大きな声を出さなければ良かった。近所の人に聞かれてたら恥ずかしいな。  そんなことを思いながら、私は奈々ちゃんママとのおしゃべりを楽しんだ。  ドーナッツを片手に、噂話に盛り上がっていた時だった。 「ママ……なんか、きもちわるい」  いつも元気な奈々ちゃんが、色白な顔を更に白くしながら、ポツリと言った。 「え、やだ。風邪かな? ごめん、すぐに帰るわ。吐いたりしたら申し訳ないし」 「気にしないで。なんなら家で少し休んでいっていいのよ?」 「ありがとう。奈々、どうする?」  奈々ちゃんはぶんぶんと首を振り、ママの手を引っ張りながら、「早く帰ろう」とせがむ。こんなふうにぐずるのは初めてだ。よほど具合が悪いのかもしれない。 「ごめんね、奈々もこういってるし、すぐに帰るわ」 「気にしないで。お大事にね」  奈々ちゃん親子を門のところまで見送ることにした。ぐずる奈々ちゃんはママにしがみついている。ちらりと私を見たので、軽く手を振った。 「こわい……」 「え?」  奈々ちゃんは呟き、その直後に泣き出した。
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