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第2話 「孤独のプラモ」
——-日曜日。
それは勉強、部活に励む生徒達にとって、一時の休息である。雪も溶け始め歩きやすくなった新潟の道を、一人の少年が歩いていた。さくさくと雪を踏みしめる音が心地よい。
(……この辺だな。あ、あった!この店だ。)
彼は興奮冷めやらぬ様子で、郊外にある一軒の模型屋へと入っていく。
(さて……と。お手並み拝見といきますか。こういう町外れにある模型屋はレアな商品がまだ残っていることが多い。)
店内に入ると、模型店特有の香りが鼻をついた。この埃っぽい匂いは嫌いでは無い。深呼吸し胸いっぱいにその香りを吸い込むと、入り口付近にある店内の案内図に目を通す。
(ふむふむ。ガンプラ、30MM、FA:G……か。品揃えはそこそこだな。後はどんな商品があるかな?出来れば艶消しブラックやウェポンセットもあるといいのだけど。)
案内図を見た後、総一郎は手始めにMSG武器セット、模型工具コーナーから見ることにした。通称、この2つのコーナーの品が充実している店は当たりであることが多い。ガンプラコーナーから見てしまうと、目当ての商品がない時に落胆してしまうからという理由もあった。
店内は一見狭そうに見えたが、意外にも広い様だ。塗料コーナーに辿り着く。総一郎は目を見張った。なんと黒、白、グレーの各種サーフェイサーと艶消しブラックや各企業ごとのゴールドスプレーが売られていたからである。
(なんて品揃えだ……ッ!圧倒的じゃないか。ヤ○ダ電気が霞んで見えるよ。)
総一郎は彼の愛機であるシビュラブリッツに使えそうな、艶消しブラックを2つと黒のサーフェイサーを一つ。そして、誕生日が近い彰人へのプレゼントにゴールドスプレーを一つ買う。
(これは幸先がいいぞ!)
総一郎はFA:GコーナーやM・S・Gコーナーを無視しガンプラコーナーへと向かう。ガンプラコーナーでは、彼の予想を遥かに超える結果が待ち受けていた。
(な、なんだこの品揃えはっ!?見た事がないキットまであるぞ!転売ヤーが見たら大変な事になる!)
彼は目の前に広がる光景が信じられない。HGドラッツェ、HGリガズィ、HGハマーン専用ガザC、MGジ・O、コアガンダムシリーズ全てに、クスィーガンダム、ペーネロペーガンダムといった、ありとあらゆる希少価値の高いキットが揃っていた。
(うおおおおおおおっ!え、HGドラッツェ!初めて見た!僕の戦闘スタイルとは合わないから今回は見送るが、いつか欲しい!すごいぞここは。当たり中の当たりじゃないか!)
総一郎の目が爛々と輝く。至高の品揃えだった。その中でも、特に彼の目を引いたのがHGザクスナイパーである。
彼の戦闘スタイルは、もっぱら狙撃である。潜み、敵を狙い撃つ。その快感が忘れられないからであった。GBAで彼はシビュラブリッツというブリッツガンダムを改造した機体を使用してはいるが、ザクやジムスナイパーといった渋い量産型の機体も大好物だ。
生憎この店にはジムスナイパーはない様だが、このザクスナイパーは今の彼にとって最高の品だ。頭が反応する前に身体が反応していた。すぐに手に取り、カゴに入れる。
「ありがとうございましたー。」
店員の声を後に店から出た。出費は6000円近くかかってしまったが、総一郎の心は晴れやかであった。
(すぐに……作りたいけど、父さんにバレない様に工作しなくてはいけないね。)
彼の父は医師という職業柄、厳格な男であり、プラモ趣味を許してはいない。総一郎がこのまま品を持ち帰るというのは自死に等しい行動であった。
(そこで……だ。)
ボストンバッグを開けプラモを入れる。そのままの足で、総一郎は書店へと向かい、何冊か参考書を購入した。赤本や各教科の参考書は分厚く、一見バレないであろうと考えたからである。こうした工作も、彼は嫌いではなかった。
(これで良し。帰るとするか。)
時刻は12時を過ぎている。腹も減っているし、手に持つボストンバッグが重い。総一郎は足早に帰る事に決めた。自宅に帰ったら、自室でのんびり組む事にしようとほくそ笑みながら、新潟の行き道をのんびりと歩く。こうした休日は、総一郎の心を癒してくれた。
完
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