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彼のことが気になり、なかなか寝付けないまま朝を迎えた。
この村にいる理由は、無くした記憶を取り戻すためだけだからと、彼は早朝から記憶探しをはじめた。僕の家の裏庭も探してみたいと彼が言うので、僕はそれを承諾した。
地面を凝視しながら歩き回る彼の様子を横目に見ながら、朝食のトーストをつまんでいると、彼が急に大声で叫び出した。
「どうしました?!」慌てて彼のもとへ。
「やめろ! やめろ! やめろっ!」
彼は激しく首を横に振りながら叫び続けている。
「落ち着いてください!」
「やめろ! やめろっ!」
完全に冷静さを失った彼を抱きかかえ、強引にリビングへと引っ張り込む。
「何があったんですか?! また、何か悪い記憶でも?」
過呼吸が治まらず、荒い息を繰り返す彼は、「えぇ」と弱々しく漏らした。そして、尚も頭を振り続ける。
彼を落ち着かせるため、水を一杯用意しようと立ち上がったとき、絞り出すように彼が言い放った。
「彼女を殺してしまった」
「え?」
「この手で彼女を殺してしまったんですよ!」
深々と祈るような格好で床に突っ伏すと、彼は声をあげながら泣き出した。
「浮気の証拠を突きつけ、彼女を問い詰めたんです。すると彼女、開き直ったように逆上しはじめ……その態度に腹が立ってしまい、気づけば彼女の首を……首を両手で締め――」
そこまで言うと、再び黙り込んでしまった。しばらくして落ち着きを取り戻しはしたが、その日、彼が口を開くことはなかった。
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