見つめる先には

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 何を見ているのだろう。  彼女はぼうっと佇んで、窓の外を眺めている。以前は窓辺に置いてある鉢植えに水をあげる姿や、窓を開けて読書をしている姿が見れた。けれど、最近はただ何もせずに外へ顔を向けているだけだ。  駅のホームからでは、表情までは確認できない。何を思って立ち続けているのだろう。  彼女の家の周りに住宅はない。隣には雑木林、その反対側には青々とした田んぼがあるだけ。隣家は田んぼを挟んで、少し先にある。  だから、彼女が見えるものといったら田んぼか、庭の木か、空くらいのはずだ。眺めていて面白いものではない。けれども、彼女は俺が電車を待っている間、ずっと窓にいた。  何か悩みでもあるのだろうか。そんなことを思う。ぼうっとしているのは、悩みの種に想いを馳せているからなのか。  彼女の力になれないかと考えて、自分に失笑する。話したこともないというのに、俺は何を言っているんだ。彼女も見ず知らずの男にそんなことを言われたら、気味悪がりこそすれ有り難かったりはしないだろう。  馬鹿な思考に頭を振った時、電車がやってきた。車両に遮られて、彼女の姿が見えなくなってしまう。  俺は電車に乗り込み、そのまま正面の扉へ近寄る。  窓ガラスを覗き込んでみたけれど、もう彼女はいなくなっていた。
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