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その日の夕方。
彼女のことが頭から離れない俺は、駅に着くと家の方を窺った。けど、やっぱり窓には誰の姿もない。
落胆して視線を戻した時、ホームに落ちているある物が目に入った。数歩先の黄色の点字ブロックの上。はたはたと風に煽られているそれは、白いシャツのようである。
歩み寄って拾い上げてみた。片方の肩の部分が、洗濯バサミに挟まれている。多分、洗濯物が風に飛ばされてしまったのだろう。
「いったいどこから……」
呟いて、とある考えが脳裏に浮かぶ。
これは彼女の物なんじゃないか? 駅から最も近くにあるのは、彼女の家だ。この可能性が一番高い。いや、本当に彼女の物でなくともいい。このシャツを口実にすれば、彼女のもとを訪ねることができる。
彼女に会える。遠くから眺めるんじゃなくて。声だって聞けるんだ。
俺はシャツを握りしめると、いそいそと改札口を目指した。
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