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「彼女が、死んだ……」
とても信じられなかった。だって、今朝も彼女の姿を見ているのだ。ほんの9時間前のことだぞ。ようやく彼女に会えると思った矢先に訃報を告げられても、受け入れることなんてできなかった。
絶句したまま立ち尽くす俺に、女性は心配そうな顔をする。
「あなた、知り合いなの?」
俺はなんと答えたものか迷う。知り合い……ではない。赤の他人だ。でも、上手く経緯を説明できる気はしなかった。
モゴモゴと口籠ってるうちに相手は勝手に解釈して、気の毒にねえとこぼした。
「まだお若いのに」
「あ、あの!」
ひょっとしたら姉妹とか母親とか、違う人物なのじゃないか。その考えを思いついた俺は、女性に訊ねてみる。しかし、淡い期待はあっさりと否定された。
「このお家は娘さんの一人暮らしだったはずよ。昔はお父さんがいたけど、何年か前に亡くなってねえ」
「そう、ですか。じゃあ、やっぱり彼女なんですね。でも、信じられません。だって、今朝までは……」
元気そうではなかったけど、いつも通りの彼女だった。自殺しそうな程追い詰められているようには、とても見えなかった。自殺を思い立ったのが朝以降なのだろうか。でも、そんなすぐに死ぬ覚悟が決まるものなのか。
俺が黙ってしまうと、女性が遠慮がちに話しかけてきた。
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