見つめる先には

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「それは、どういう意味ですか?」 「だって一昨日は、確か雨が降ったでしょう? そんな日にずっと外にいて、寒かっただろうにって思っちゃって。もう亡くなっていたんだから、寒いも何もないんでしょうけど」 「ずっと……外に?」  何を言っているんだ。彼女は部屋で首を吊ったんじゃないのか。 「あら、ご存知なかったの? 彼女ね、ほら、あそこの庭から生えている木で、首を吊っていたのよ」  女性が指差す先には、1本の背の高い木がある。あれは駅のホームから見えていた木じゃないか。あの木に、彼女が?  彼女は部屋で死んだわけじゃなかったのか? じゃあ、俺が見ていたのは、彼女の死体じゃなかったのか? それじゃ、あの彼女は幽霊だったのか? でも、死んだ後も家に残って、彼女はいったい何をしていたっていうんだ。  そこまで考えて、俺はある考えが浮かぶ。あそこから見えるものは限られている。田んぼか、空か、後は庭の木だけ。  そうだ。見えるのだ。あの窓から。  彼女は自分を見ていたのだ。窓の外の木にぶら下がった、自分の死体を。何日も何日も。  俺はくらりと眩暈を感じる。木へ向けていた視線がズレて、窓が視界に入った。はっと息を呑んだのは、窓辺に誰かが立っていたからだ。  見間違えるはずもない。白い服に、長い黒髪の若い女性。  彼女だ。  呆然としていると、彼女と目が合った。目を弓なりに細めてにっこりと笑い、唇を開く。  彼女の口の動きに、俺は背筋を氷が滑り落ちる感覚がして、堪らず駆け出した。女性が呼ぶ声がするが、止まれるわけがない。  確かに、彼女の口はこう言っていた。  ヤット、キテクレターーと。
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