見つめる先には

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 今日も彼女は空を見つめていた。  いや。ひょっとしたら、見つめているのは違うものかもしれない。けど、俺のいる場所からでは、実際に彼女が何を見ているのかは分からなかった。  ここから見えるものといったら、窓辺に立つ彼女と蔦の這った白壁、それから庭に植えられている背の高い樹木だけだ。  俺はそれを駅のホームから眺めている。通勤の時間帯だが、ホームは閑散としていた。もう少し先の駅なら、学校や会社へ向かう人達が電車の到着を待っているだろう。  だが、周りに田んぼと申し訳程度の家しかないこの駅には、俺の姿しかなかった。お陰で毎朝、座って通学できている。  俺は彼女をもっとハッキリ見られないか、と爪先立ちになってみた。歳は多分、俺と同じくらい。彼女は決まって毎朝、窓辺に立って外を眺めている。それに気がついたのはいつだっただろう。  何の気なしに視線を向けた先にあった一軒の住宅。年季の入った白い壁には、葉を茂らせた蔦が絡みついている。寂れた印象を与えそうなものだが、庭に咲いた賑やかな花のせいか、この家は避暑地の別荘を連想させた。  このどこか趣のある家の窓に、彼女はいた。  俺は毎日、彼女を見ている。でも、話しかけるわけでも、目が合うわけでもない。向こうは俺の存在を知らないのだから当然だ。だが、俺はそれで満足だった。  まるで少女漫画に出てくる、物陰からヒーローを慕うヒロインのように、ただ彼女を見つめ続けるだけ。  この距離感が今の俺には丁度よかった。
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