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「だめだわ。もう逃げられない」
ぐにょっずるっ‥‥‥ぐにょっずるっ‥‥‥
ドア一枚を隔ててやつらはすぐそこまで来ている。
この星はもう侵略者の物だ。
仲間は全滅。見つかれば喰われる。
化物を放った侵略者に投降しても、息絶えるまで恐ろしい研究の糧にされるだけだろう。
「君を苦しませはしないよ」
彼はポケットから小さな瓶を取り出した。
「さぁ飲んで。少しだけ苦しいかもしれないけれど、あいつらの手にかかるよりはずっと楽に逝ける」
「あなたは?」
「心配しないで」
彼はサバイバルナイフを抜いて見せた。
「いやよ。一緒に」
「大丈夫。すぐに追いかけるから」
彼女は覚悟を決めて薬を飲んだ。
「おやすみ」
膝の上で固く目を閉じた彼女の髪を撫でながら、彼はナイフを自分の胸に突き立てた。
ドアが破られ、化物と共に狩りの勝利に興奮して踏み込んだ侵略者達は固まった。
そこには、胸の中央にナイフを刺したまま絶命している地球人と見上げるように巨大なナマケモノがいた。
ナマケモノはのそのそと逃げ出す化物をひっつかみ、次々に平らげていく。
あっけにとられていた侵略者達はようやく身の危険に気づき 、あわてて逃げようとしたが、ナマケモノの伸ばしたかぎ爪に引き寄せられ一人残らずバリバリと食べられていった。
『ごめんね。君にはどうあっても生きてほしかったんだ。
安心して。これから君は、どんな状況にだって対応できる。
進化し続けられる。
力だってどんどん強くなるし、死ぬことも無い。
もうお金も、大きな家も、高価な宝石も欲しがる必要は無いんだよ。
どこにだって住めるし。何だって食べられるんだから。
誰にも縛られない。誰も君に逆らえない。
君が望んだとおり、今日から君は女王様だ!
もう僕と所長の息子を秤にかけなくていいんだよ。
この瓶の薬こそが僕の研究の全て。これが僕の命。
君は前に、僕を跪かせて言ったね。
――私が好きなら私への愛に命を懸けて。と……。
あげる。これが僕の命だ。
これが僕の復讐です。どうぞ受け取って。
でも残念だな。きっともう、字は読めないよね』
瓶の中、錠剤と共に入れられていた手紙は、そのまま彼女の口に放り込まれた。
(END)
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