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その日、僕は男子生徒を傷つけてしまった。入院するほどのケガにはいたらなかったから退学を免れたけど、しばらくの停学が決まった。ずっと奏汰に申し訳ない気持ちだった。
久しぶりに登校した日の放課後、音楽部が終わったのを見計らって僕は音楽室にむかった。
「奏汰っ!」
勢いよく戸を開けて音楽室に駆け込むと、本を読んでいた奏汰は目を丸くして僕のほうを見た。
「なごみ…」
驚く奏汰に僕は勢いよく抱きついた。
「ごめん、奏汰。僕が、あんなことしなければ…」
「いいよ、大丈夫。僕こそ、忘れてたんだ。初めて会ったとき、なごみが僕のことをピアノで会話してるみたいだって言ったのを」
謝る僕は涙が止まらなくなったけど、奏汰は落ち着いていた。泣き続ける僕に、奏汰は優しく微笑んで提案した。
「……じゃあさ、僕のピアノ聴いてくれる?」
「え?」
奏汰の提案に、僕はとても驚いた。そんな僕をよそに、奏汰はピアノの椅子に座った。そして、奏汰はピアノを弾き始めた。
僕は呆然としながらも、椅子に座って聴いている。
『いつも奏汰は楽しそうにピアノを弾くな。それで、いつも僕は元気をもらえる』
ピアノを聴きながら僕はそう感じていた。
曲が終わって、静寂に包まれた音楽室で僕らは顔を見合わせて笑い合った。
「決めた。僕、音楽療法士を目指すよ」
「音楽療法士って、そこにある本の?」
「うん」
奏汰は笑顔をむけて僕に言う。奏汰の言葉に驚いた僕だったけど、しばらくして頬をほころばせた。奏汰らしいと思った。
「…いいんじゃない?奏汰なら、なれるよ」
「ありがとう。なったら、なごみやなごみみたいに苦しんでる子たちを助けるんだ」
奏汰は本を手に取り思いを伝える。そんな奏汰がうらやましくなって僕も窓際まで行って空を見上げながら話し始めた。
「そっか。…僕も、小学校の先生になりたかったんだ。諦めてたけど、また目指してみようかな」
「応援するよ。一緒に、夢叶えよう!」
「うん、頑張ろう!」
夕日が差し込む静かな音楽室で、僕らはまた笑い合った。
そこは、僕と奏汰が出会い、僕らが『自分の夢』に気づいた場所。
そして、僕らの大切な居場所。
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