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それから約二年が経って、僕は高校一年生になっていた。僕は元々読書が好きだったから、ほぼ毎日図書室に行っていた。でも、なにか物足りなくて少し自傷をしていたから、いつもカッターをお守りとしてポケットの中に入れて持ち歩いていた。
そんな僕を変えてくれたのは、音楽室で会った伊藤奏汰という生徒だった。夏休み前に音楽室からピアノの音が聞こえてきたのだ。彼の弾くピアノの音はすごくしっかりしていて楽しそうで、まるで会話を聞いているみたいだった。
「君って、ピアノで会話してるみたい」
僕がそう言うと、奏汰はすごく嬉しそうに笑って頷いたのを覚えている。場面緘黙症だという彼だったけど、筆談は楽しいし少しずつ小声で話してくれるようになっていた。
でも、二年生になりあの出来事があって、僕は奏汰を悲しませてしまった。
「女子みてぇ」
僕らが手をつないでいると奏汰のクラスの男子たちが言ってきた。それに僕は疑問と怒りを覚えたんだ。
「なにが?」
普段はあまり話さない僕だったけど、許せなくて聞いていた。
「お前らが、だよ。なに、女子みたいに手つないでんだよ」
「それか、恋人?」
「言えてる」
彼らは面白がって、口々に言う。奏汰は恥ずかしくて、うつむいてた。
僕はうまく言い返せなくて黙ったまま、手を強く握ってこぶしを震わせていた。僕らがなにも言い返さないのをいいことに、彼らは話し続けていた。
「伊藤ってさ、話さねぇのに加えて、遠藤がいないとなにもできねぇんじゃん。かっこわりぃ」
ふと、一人の男子がなにかを持っていくことに気づいた。それは、奏汰との筆談ノートだった。
『なんで、こいつらが持ってるんだ?奏汰がどこかに置き忘れてたのか?』
そう考える僕をよそに、男子たちは話し続ける。
「かっこわるいといえば、こいつら、筆談なんかしてるらしいぞ」
「あははっ、うけんだけど。それこそ、女子みてぇだな」
その男子がノートを見せびらかすように上へあげると、それを見た彼らは笑い転げた。
僕はたまらなく悔しくて許せなくなっていた。僕は勢いよくノートを持っていた男子に掴みかかった。
「ノート返せよっ!……女子みたいで、なにが悪い。話せなくて、なにが悪いっ!」
男子を倒して馬乗り状態になっていた僕は、怒りをあらわにして叫んでいた。そして、ポケットからカッターを出して、振り上げていた。
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