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サスペンスじみた展開を、ちょっと面白く思っていたら
「その手の指が動いてたから、びっくりして……」
サスペンスじゃなくて、ホラーだった!
「動いてるって、どんなふうに?」
「這ってる。向こうに向かって進んでる」
うん、それは不気味だ。
話しながらともは、必死になって手招いている。時々声に出さずに「ハチ」と呼んでいる様子から、ハチが戻って来なくて困っているのが分かる。
「なあ、なんでハチは、戻って来ないんだ?」
「知らないよ。もう、なんで言うこと聞かないんだよ、もう!」
ともは苛立たしげに言いながら、まだ手招きを繰り返す。
「ハチは何してる?」
「這う手の横から離れない。ちょっと戻って来たと思っても、すぐ手の横に戻っちゃう。まさか、手を持って帰りたいんじゃ……」
どこかに向かっている手。こっちを気にしながら、戻って来ないハチ。俺は少し考えてから口を開く。
「もしかして……ハチは、お前をどこかに連れて行きたいんじゃないか?」
「えっ?」
ともは、ぽかんと口を開いた間抜け顔を俺に向けた。
「ハチは賢いんだろ?」
「すごく賢いよ」
「いつもは、ともの言うこともちゃんと聞くんだろう?」
「うん」
「じゃあ、言うことを聞かないのには理由があるんだ」
ともははっとして、路地の向こうを見る。
「手が道を曲がった。ハチが曲がった先から顔を出したり、引っ込めたりしてる」
「よし! ハチを追いかけよう」
言い終わる前に駆け出すと、ともも俺に続いて走り出した。
「で、どっちに行った?」
路地を抜けた丁字路で立ち止まって尋ねる。
「こっち……ちょっと、ハチ!」
「どうした?」
突然、駆け出したともと並んで走りながら聞くと「ハチが手を咥えて走りだした」と言った。
どうやらハチは、手と一緒に俺達をどこかに連れて行きたいらしい。
「ハチが、この家に入って行った」
走った距離は、多分数十メートルくらいだろう。住宅街の狭い道を通り抜け、全く知らない人の家の前にたどり着いた。
俺達が住むところより少し古い住宅街の大きめの一軒家。ハチは、きっちりとしまった門の下の隙間から、手と一緒に入ってしまったらしい。
「この家に何かあるのか?」
「さあ……」
門扉から中を覗く目が、さまよっている。中に入ったハチを見失ったようだ。
「裏に回るか」
数ブロック先に、裏に回れそうな抜け道があった。そこから家の裏に回る。
低めのブロック塀から伸びる庭木には、種類の分からない白い花が咲いていた。花を見るふりをしながら庭を覗いてハチを探させていると、突然、ともが叫んだ。
「人が倒れてる!」
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