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「船内に子供が隠れられる場所などいくらでもある。港に着いたら港湾事務所に問い合わせろ。仮に造船所の身内でなくとも、迷子の届け出くらいは出ているだろう」
「わかりました」
「フランス語ならわかるようだ。明日、マルタ港に着くまで、面倒を見てやれ」
その言葉は船員たちに解散を促した。皆船長に続いて自分の仕事場に戻って行く。
残ったのは釈然としない顔のミナギ、テオドゥロとジャンルカ、そして例の少女だけ。
「えーっと……それで、どうする?」
テオドゥロがおずおずとジャンルカを見る。ジャンルカは肩を竦めてミナギを見た。ミナギは盛大に溜息を吐く。
「とりあえず、食堂にでも連れて行こう。できるだけ誰かの目に届くところにいてもらわないと」
「よっし、じゃあニイちゃんたちと飯食いに行っか!」
「お腹空いてるかい? お菓子もあるよ」
ジャンルカが笑顔で手を差し出す。テオドゥロが後ろから少女を抱えて立たせてやった。しかし、またしても少女は怯えた顔で二人を見比べ、ミナギを通り越して廊下の先に視線を送るのだった。
「行こう」
ミナギも手を差し伸べる。
少女は躊躇った末、ミナギの手を取った。
「あ? なんでミナギなんだよ!」
前を行く二人を追い掛けながら、ジャンルカが抗議の声を上げる。テオドゥロはクスクスと忍び笑いを漏らした。
「ジャンルカの顔が怖いからだろ」
「おうおう、お前の髭面だって人のこと言えねぇぞ」
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