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4.船長、少女に懐かれる
食堂に連れて行かれた少女は、瞬く間に厳つい顔の船乗りたちに取り囲まれた。物珍しさもあるが、ただでさえ新船にテンションが上がっていたところに、天使と見紛う可愛らしいお客さんが現れたのだ。子供好きの連中が群がり、それ以外の者たちも遠巻きに様子を窺っている。
当然、居心地は悪い。
少女は食卓に座らされてからも、リュックサックを抱き締めたまま顔を上げようとしなかった。
「どうしたー? ペンネ嫌いかぁ?」
「ばーか。察してやれよ。お前の面を見てると食欲が落ちるんだよ」
「はっはっは。違ぇねえ!」
食堂に響く豪快な笑い声。
陽気な船乗りたちに圧され、少女はますます小さくなった。
見かねた料理係が口を挟む。
「おい、怖がってるじゃないか。そっとしておいてやれよ」
そう言って少女の前に小鉢を差し出す。様々な果物がシロップに浸かり、苺の飾り切りが華を添えるマチェドニアだ。
途端に船乗り共が騒ぎ出す。
「うーわ、好感度稼ぎか? 卑怯だぞ、パオロ!」
「うるせーよ。ほら、散った散った。見てると食べづらいだろ」
ワイワイ。
ガヤガヤ。
ガッハッハ。
少女の食は進まない。
おずおずとスプーンを手に取ったが、ギュッと握り締めたまま器に挿すことができないでいる。よく見れば、その手は微かに震えていた。
「……まだお腹空いてなかったかな」
ごめんな、と誰かが少女の背中に手を添える。小さな体がビクリと跳ね上がった。すぐさま少女は申し訳なさそうに目を伏せるが、それ以上に船乗りたちは反省していた。
「あーっと……解散、解散! 仕事サボってんじゃねーよ! ベニート、お前今ワッチだろ? 持ち場に戻れ!」
ジャンルカがその場を取り仕切る。
船員たちは渋々食堂から出て行った。何人かは小声で謝罪を述べたり、クシャっとした笑みを少女に投げ掛けていった。
彼らと入れ違いに船長が食堂を訪れた。ミナギを従え、二人で何やらどうでもいい口論を交わしている。
すると、意外なことが起きた。
居合わせた誰もがあんぐりと口を開ける。
怯えて動かなかった少女が、船長に向かって駆け出したのである。
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