4.船長、少女に懐かれる

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 驚いたのは周りだけでない。それ以上に、船長自身が驚愕に身を固くし、足元に抱き付いてきた小さな女の子を凝視した。 「……嘘」  誰ともなしに呟く。  少女はチラリと船長の顔を見上げると、すぐにズボンに顔を埋めた。 「……おい」  船長が言う。  少女が動かないのを見て、青い視線は周囲に助けを求めた。皆、困惑気味に首を傾げたり、顔を見合わせたり。 「……そういうことみたいですよ、船長」  ミナギが呆れた声音で止めを刺した。 「待て。何がそういうことだ」 「仕方がないじゃないですか。その子があなたを選んだんだから」  肩を竦める航海士に答えを求めるのはやめ、船長は部下たちを睨み付けた。 「テオドゥロ、この子の面倒を見てやれ……ベニート、今のワッチはお前ではなかったか」 「あっ、はい。すいません」  走るベニートの背を見送って、テオドゥロも困った顔をする。 「船長、俺たちじゃダメだったんですよ。すっかり怖がられちゃって」 「……パオロ」 「いやー……自分はちょっとまだ仕込みが……」 「ジャンルカ」 「船長、往生際が悪いっすよ」  ジャンルカとテオドゥロコンビは口笛を吹きながら出て行った。料理係もそそくさと厨房に戻る。食堂に残った他の者たちが一斉に視線を落としたのもわざとらしい。  船長は苛立ちを交えて目を細め、少女のつむじを見下ろした。 「……おい、小娘」 「いや、小娘はないでしょう」  ミナギが横から嗜める。船長はジロリと彼を睨んだ。 「ミナギ」 「あ、俺も無理ですよ。機関室行かなきゃならないんで。この子の名前、訊いておいてくださいね」 「おい」  ミナギは持ち出し用の軽食を掴むと、軽く会釈して行ってしまった。  船長は無言で少女を凝視する。  少女は上目遣いで彼を見返した。 「……退け。歩けない」  少女は聞き分けよく身を離す。が、船長が食卓に着くと、控えめながらもその隣に腰を下ろすのだった。
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