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5.小さな密航者
〈アヒブドゥニア〉号の船長は頑固な堅物だ。表情に乏しい中年男性の印象に違わない。
だが、それに負けないくらい、あの少女も頑固だった。
船長は少女を無視して食事を平らげ、操舵室へ向かった。
彼は食事のペースを落とさなかったし、歩調を緩めることもしなかった。急いではないにしろ、長身の一歩は幅がある。それでも少女は諦めず、彼の歩みに付いて行くため小走りになりながら、健気に後を追い続けた。
傍から見れば実に可愛らしい光景だ。
けれど、船長にとっては、鬱陶しいにも程がある。
「……おい」
小娘と呼ぶと部下に怒られるので、少女の呼び名は「おい」になった。
「仕事の邪魔だ。付いて来るな」
少女はリュックサックを握り締めて項垂れる――かと思いきや、二人の間の距離が若干長くなっただけで、後を付けること自体はやめようとしなかった。
その内、船長も文句を言わなくなった。慣れたのもあるだろうが、少女の方が学習を重ねたのだろう。彼の視界に入らないよう物陰に隠れ、なるべく距離を置いて追い掛ける。彼に相手にしてもらえずとも、姿を捉えていられればそれで満足のようだった。
「船長、モテますねぇ」
ジャンルカがニヤニヤ笑う。
「黙れ」
船長はぴしゃりと跳ね付けると、彼に少女の部屋を用意してやるよう言い付けた。
「私は自室で仕事がある。絶対に邪魔をさせるな」
「へい」
少女は訴えるように船長を見たが、自分と同じ青い目がそっぽを向いてしまうと、悲しそうに首を垂れた。
「おいで、お嬢ちゃん」
ジャンルカが慰めるように手を握る。少女は大人しく彼に従った。
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