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6.ミナギの過去
ジャンルカの発見を知らされても、船長は眉一つ動かさなかった。
「そうか」
一言そう述べるだけ。
「ええっ、それだけですか?」
彼が不満げに言うと、船長は僅かに首を傾げて見せた。
「仮にそれが事実だったとしても、我々が取るべき対応は変わらない。港湾事務所に連絡を入れ、その子の身柄を引き渡す」
「もしかしたら、迎えが来るのかもしれませんね。流石にこんな小さな子が独りでどこかに行こうとしてるっていうのは考えづらいですし」
ミナギが口を挟む。顔を顰めて付け加えた。
「もしそうなら、保護者に一言くらい文句を言ってやりたいですよ。必要な運賃は払わせましょう」
「子供だぞ?」
ジャンルカが言うが、生真面目な航海士は首を振った。
「密航は犯罪だ」
「オレたちがそれを言うか?」
〈アヒブドゥニア〉号は至極真っ当に海運業を営んでいる――のだが。客の依頼によっては極めて物騒な仕事を請け負うこともあるのだ。それはジャンルカが自称している「武器庫番」という役職にも表れている。
ミナギは咳払いで誤魔化した。
「……あの子はどうした」
船長が海図から目を上げる。彼らは新しい船の燃費を算出する作業の最中であった。
「部屋にいますよ。独りになりたそうだったんで」
「居場所は常に把握しておけ」
「了解っす」
船長と航海士はまた作業に戻る。
退出するジャンルカの背後から「やはり燃料費は抑えた方が良さそうだ」というやり取りが聞こえていた。
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