30人が本棚に入れています
本棚に追加
7.ごめんなさい
船長が自室に戻ると、部屋の前でミナギが待っていた。なぜかあの少女と手を繋いでいる。
嫌な予感がしたが他に行く所もなく、船長は無言で二人の前に歩み寄った。
「はい、船長」
彼は差し出された小さな手を見下ろした。
「なんだ」
「なんだじゃないですよ」
ミナギは船長が少女の手を取らないのを見て、仕方なく彼女の背を優しく押した。
「こんな知らない場所で独りで寝かすなんて可哀想じゃないですか。物凄く怯えていたの、船長も覚えてるでしょう?」
「だからと言って私に渡すな。他にその役を担いたい者はいくらでもいるだろう」
「みんなこの子に逃げられました。やっぱりあなたがいいんですよ」
「知るか。私にはまだ仕事がある」
船長の木で鼻を括ったような物言いはいつものことながら、あまりの融通の利かなさにミナギがムッと顔を顰める。もういいですと言わんばかりに背を向け、少女を船長室へ誘った。
「さ、ここにいていいよ。船長さんに何かお話してもらいな」
「ミナギ。勝手なことをするな」
「それじゃ、この子のことを頼みましたよ。ちゃんと面倒見てあげてくださいね」
急いで船長が止めに入るが、ミナギは反抗的に睨み付けて、さっさとその場を立ち去ってしまった。
ズボンから伝わる小さな違和感に視線を下す。あの少女がおずおずと彼の服を掴んでいた。こちらを見上げる青い眼差しは控えめながら、一緒にいたいのだと確かに訴えてくる。
だが。
藍色の男は頑なに、それを理解しようとはしなかった。
「……一人で眠れるな?」
少女は大きな瞳を悲しげに曇らせたが。
小さく頷いた。
「怖ければ部屋に鍵を掛ければいい。鍵は私とミナギが預かっている。誰も不用意に部屋を訪れたりはしない」
それは彼なりの気遣いだった――少女が求めているものに適うかは別の話だけれど。
彼は少女の背を押し、廊下へと追い出した。
締まる扉の隙間から見えた少女の顔は俯いていた。
最初のコメントを投稿しよう!