7.ごめんなさい

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 罪悪感よりも驚きが先行した。  彼はなんと答えていいかもわからず、ただただ目を見張る。  発した声は擦れていた。 「……どうして」 「わからないんですか? まったく……」  怒りを通り越して呆れた表情を見せる。ミナギは蔑むように彼を見た。 「もういいです。今からでも遅くありません。仕事は明日に回して、この子を寝かしてきてください」 「なん――」 「いいから!」  それ以上逡巡の隙を与えず、ミナギは少女を抱き上げて船長の腕に押し付けた。  咄嗟に受け取ってしまった体は驚く程小さくて、柔らかくて、ほんのり温かかった。 「いいですか。今度こそ、ちゃんと、彼女のことを見てあげてくださいね」  ミナギは船長に言い返す間を与えず、そのまま背を向けて甲板に出て行ってしまった。  呆然と立ち尽くす一人と、腕の中のもう一人。  ふいに、彼はここが非常に威圧的だと思った。  延々と続くペンキで塗られた白い廊下。窓も無い。どこからともなくエンジンの音が響いており、それは穴倉に潜む獣の唸り声のようだった。  心臓の鼓動が速くなる。  左右の壁が意思を持って彼に迫っていた。 「……ぁ」  どっと汗が噴き出した。  マズい、と思ったその瞬間――頬に触れた小さな温もりが、彼を閉所への発作的な恐慌から立ち直らせた。  少女が彼の頬に手を当て、その目を覗き込んでいた。 「……大丈夫?」  初めて耳にする幼い声。  健気な視線は先程の酷い仕打ちを恨む様子すら見せない。 〈アヒブドゥニア〉号の船長は丸く大きな少女の瞳に魅せられた。  彼は気付く。  なんて青い瞳だろう。  自分と同じ、海の色。 「……ああ」  絞り出すように溜息を吐く。すると、少女の手が労わるようにこめかみを撫でた。 「すまない、もう大丈夫だ」  脈拍が正常なリズムを取り戻していく。  取り乱した顔をこれ以上見られたくなくて、彼は無意識に少女の頭を抱き寄せた。顎に触れた白金の髪は柔らかく、実体を疑いたくなる程に滑らかだ。  船長はぽつりと呟いた。 「なぜ、部屋に戻らなかった」  少女は答えを一瞬躊躇った。 「……あのね。船長さんのお傍に、いたかったの」  二人の目が合う。  感情の窺えぬ男の双眸に、少女の顔が見る見るうちに歪み始めた。 「……さい」  消え入りそうなか細い声。少女の瞳は涙を湛え、唇は微かに震えているのが見て取れた。その手は縋るように、彼のシャツを握りしめて。 「……ごめんなさい」  涙が頬を伝った。 「お仕事の邪魔して、ごめんなさい……」  そして、金の髪で泣き顔を隠すように、船長から顔を背けた。
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