8.拷問

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 拳に備えて身構える。  しかし、ロレンツォはそんなルカを見下ろしてニンマリと笑い、顎で部下に合図した。  目の前に用意された拘束具付きの木製の台。男たちがルカの腕の拘束を解き、その台に固定し直す。  広げて並べられた自分の両手を見て、青年の背にヒヤリと冷たいものが走った。 「……ぃ、嫌だ」  気付くと震える声が漏れていた。  ロレンツォは部下に椅子を用意させ、優雅に煙草を吹かし始めていた。 「ん? 小娘の居所か?」 「それは、言えない」 「そうか。生憎、俺はその話以外は聞きたくない。口を開くのは俺の質問に答えるときだけにするんだな」  褐色の瞳がルカを見据える。  そこに浮かんだ冷淡な光の意味を、ルカは残酷な程に知っていた。 「ルーカよ、忠誠心は美徳だ。だがな、冷静に考えてみろ。死んだ人間にそこまで尽くして何になる? 今後の身の振り方は考えているのか?」 「オヤジさんがいなけりゃ、僕はそもそも今日まで生きちゃいなかったんだ。僕はその恩を忘れたくないのさ」  二人が会話を続ける間にも、ロレンツォの部下は着々と拷問の準備を進めていく。丁寧に並べられた四本の釘がその存在感を主張していた。  ロレンツォはねっとりとした視線でルカの全身を舐めた後、わざとらしく目を逸らした。暗闇に浮かぶ橙の染みのような煙草の火に照らされた横顔は、なぜだか妙な色気を纏ってすらいた。  ふーっと長く息を吐く。紫煙が漂い消えるのを見届けて、再びルカを振り返ったロレンツォの顔には、同情が浮かんでいた。 「可哀想に、カーロ・ルーカ」  そう言って、首を振る。 「――可哀想に」  ルカの目が恐怖に見開かれる。  それは、果てしなく長い責め苦の始まりだった。
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