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拳に備えて身構える。
しかし、ロレンツォはそんなルカを見下ろしてニンマリと笑い、顎で部下に合図した。
目の前に用意された拘束具付きの木製の台。男たちがルカの腕の拘束を解き、その台に固定し直す。
広げて並べられた自分の両手を見て、青年の背にヒヤリと冷たいものが走った。
「……ぃ、嫌だ」
気付くと震える声が漏れていた。
ロレンツォは部下に椅子を用意させ、優雅に煙草を吹かし始めていた。
「ん? 小娘の居所か?」
「それは、言えない」
「そうか。生憎、俺はその話以外は聞きたくない。口を開くのは俺の質問に答えるときだけにするんだな」
褐色の瞳がルカを見据える。
そこに浮かんだ冷淡な光の意味を、ルカは残酷な程に知っていた。
「ルーカよ、忠誠心は美徳だ。だがな、冷静に考えてみろ。死んだ人間にそこまで尽くして何になる? 今後の身の振り方は考えているのか?」
「オヤジさんがいなけりゃ、僕はそもそも今日まで生きちゃいなかったんだ。僕はその恩を忘れたくないのさ」
二人が会話を続ける間にも、ロレンツォの部下は着々と拷問の準備を進めていく。丁寧に並べられた四本の釘がその存在感を主張していた。
ロレンツォはねっとりとした視線でルカの全身を舐めた後、わざとらしく目を逸らした。暗闇に浮かぶ橙の染みのような煙草の火に照らされた横顔は、なぜだか妙な色気を纏ってすらいた。
ふーっと長く息を吐く。紫煙が漂い消えるのを見届けて、再びルカを振り返ったロレンツォの顔には、同情が浮かんでいた。
「可哀想に、カーロ・ルーカ」
そう言って、首を振る。
「――可哀想に」
ルカの目が恐怖に見開かれる。
それは、果てしなく長い責め苦の始まりだった。
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