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それから彼にどんなことが為されたか。
空になった釘の箱と、床に滴った無数の血の池が物語っている。
「ぁ、あぅ……うう、う……」
嗚咽が漏れる。
青年のテノールは絶叫のために枯れてしまい、上品さも爽やかさも残っていなかった。全身の穴という穴から体液を垂れ流した彼は、ただ椅子の上で天を仰ぎ、血と汚物の悪臭に包まれていた。
「可哀想なルーカ」
ロレンツォは四本目の煙草に火を点けた。
「見上げた根性だ。偉いなぁ。きっと天国の――おっと。地獄にいるサヴェリオ・マルケシーニも感激の涙を流しているよ」
ロレンツォは太い指の先でルカの腕を撫でた。その指が皮膚に埋まる金属の表面に触れるたび、ルカの体がビクリと跳ねる。
「教えてくれ。どこが一番痛かった?」
手首を押し。
「ここか?」
「い……ッ」
肘の内側を押し。
「ここか?」
「ひぐッ、う……ッ」
爪と指の隙間を弾いた。
「やっぱりここだよなァ」
「ああっ、ああああ……!」
痛みは骨を駆け抜けた。
指先は火でも出ているかのように熱く、首から頭にかけて熱が籠って朦朧としていた。
だが、全身に打ち込まれた痛みは意識を手放すまでには至らない。激痛はルカを失神の縁まで追い詰めたが、いざ倒れ込もうとするとその手を引いて、無理矢理現実へと手繰り寄せるのだ。
ロレンツォはじっくりとルカを観察したのち、部下たちを振り返った。
「磁石を忘れたのが悔やまれるぜ。腕に貼り付くか試してみたかったんだが」
ドッと笑いが湧き上がる。
ロレンツォは笑い声が収まるのを待ち、やれやれと首を振った。
「ここまで強情だとは思わなかったよ。まだ小娘の居場所を吐く気にはならないのか?」
「い……言え、ない……っ」
ルカは涙と鼻水を嚙み締めた。ロレンツォは同情の籠った溜息を吐く。
「そうか。それじゃあ、仕方がない――もう一周だ」
「え……?」
言うが早いか、ロレンツォはルカの人差し指から釘を抜き取った。
「いぎィッ」
無様な悲鳴が虚空に消える。
ロレンツォは憐れむように微笑んだ。
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