2.新造船〈アヒブドゥニア〉号

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 一人は長い付き合いからの別れを、一人は長い付き合いの始まりを。互いに胸の中で語りかける。帆船はそれぞれに答えるように、ゆっくりと波に煽られて上下した。  こちらに駆け寄る足音がする。  眼鏡の青年が金の巻き毛を揺らし、二人の前で立ち止まった。 「船長! 探しましたよ」 〈アヒブドゥニア〉号の若き航海士、ミナギだ。  ミナギは眼鏡を押し上げ、額を流れる汗を拭った。 「積込みが終わりましたよ。もう出航できます」 「……わかった」 〈アヒブドゥニア〉号の船長は今一度船を見上げ、その姿を目に焼き付ける。オリヴィエはやれやれと首をふった。 「素直に手放したくないって言ったらどうだい。ま、どうせ当分売れやしないさ。会いたくなったらいつでもおいで」  見下ろした瞳は無表情で。  オリヴィエは黙って肩を竦めた。 「あ、マダム・オリヴィエ。ご挨拶が遅れてすみません。これから旧船がお世話になります」  ミナギが丁寧に腰を折る。オリヴィエは嬉しそうに笑った。 「やっぱり若い子は可愛いねぇ。表情があってさ。あんたもちょっとは見習いな?」  彼女が肘で小突いたが、船長は眉一つ動かさない。 「やれやれ……久しぶりだねぇ、ミナギ。ダメな船長を持つと苦労するね」  ミナギが微笑む。 「仕事ですから」 「そろそろまともに仕事しろって言ってやんな」 「ですって、船長?」 〈アヒブドゥニア〉号の船長は、ニヤつく二人を無視して踵を返した。  これから新船の処女航海に出るのだ。
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