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3.奇妙な乗客
「すっげぇ! やっぱり蒸気機関はいいなあ!」
外部甲板で弾んだ声が響く。
数人の乗組員たちがファンネルを見上げて歓声を上げていた。
船体の中央部に腰を据えた太い煙突。立ち昇った煙は青空で身を翻し、そのまま船の後方へと漂い消える。煙を追って船尾に目を向ければ、遠く小さくなったナポリ港を背に、新船〈アヒブドゥニア〉号が通った軌跡が海上に白い轍を残していた。
彼らが立つ甲板より更に船首側には、背丈の違う三本のマストも備えられている。これが新船〈アヒブドゥニア〉号――機帆船と呼ばれる船の特徴だ。
機帆船とは、その名の通り蒸気機関と帆の両方を備えている船で、必要に応じて船の動力を使い分けることができる。
基本的には蒸気機関を用い、良い風が捕まえられる時には今まで通り帆を張ればいい。長年気まぐれな風に振り回されて来た船乗りたちにとって、画期的な発明だった。
「これからは嵐の中、甲板を走り回ったりしなくていいんだな!」
と、目を輝かせるテオドゥロに、相棒のジャンルカが肩をど突いた。
「代わりに石炭運びの重労働が待ってるんだぜ?」
そう、蒸気機関の燃料は石炭だ。重い、暑い、汚れる(おまけにエンジンルームは閉塞的で酔いやすい)という過酷な仕事をこなさなければならない。
途端に絶望するテオドゥロを見て、ジャンルカはゲラゲラと笑いこけた。
「ま、船長はこれまで通り帆を張るって言ってたからよ。出入港の時くらいだって」
「そうだといいけどなぁ……」
物事はそう上手くはいかないものだ。
〈アヒブドゥニア〉号はその業態上、依頼人の要望によっては通常より急がなければならないこともある。そういう時には長い航海中のすべてを蒸気機関に頼ることだってあるだろう。
しかし、と二人は改めて自分たちの船を見上げた。
真っ青な空を切り取る黒々としたファンネルの輪郭。その下に続く船体は水平線に浮かぶ入道雲と同じ、輝かんばかりの白。
「美人な船だよなあ!」
船乗りたちは新しい『お嬢さん』が嬉しくて堪らない。
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