3.奇妙な乗客

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 反射的に振り返った彼の視界に映る濃紺の床。白い何かが散らばっている。それは暗い色の中で、星のようにはっきりと浮かび上がっていた。 「なんだこれ」  摘まんで少し力を入れるとボロボロと崩れた。微かな甘い匂いから、ビスケットか何かのカスだとわかる。  ミナギはますます不機嫌になった。  昨夜のうちに誰かがここに忍び込んで飲み食いしたらしい。それ自体を咎める気は無いが、掃除だけはきちんとしてほしいものだ。  膝をついて食べカスを拾い集めようとした彼は、そのまま硬直した。  眼鏡の奥で見開かれる緑の瞳。対峙する青。  目が合った。 「えっ、ひ……っ!」  情けない声が喉から漏れる。  彼は眼鏡を掛け直し、それが見間違いでないことを確認した。  見間違いではない。幻覚でもない。  ベッドの下に小さな女の子が隠れていた。 「な、なんで子供が……ていうか、一体どこから入ったんだ?」  疑問が思わず口をついて出たが、怯える少女を見て彼は態度を改めた。笑顔を繕い、できるだけ優しい声音で話し掛ける。 「驚かしてごめんね。君は誰かな? どうしてこんなところにいるの?」  少女は答えない。  小さなリュックサックをしがみ付くように抱き締めて、彼の手が届かない奥へと後退り。  ミナギは辛抱強く言った。 「怖がらなくていいんだよ。俺はミナギ。この船の航海士だ。君の名前を教えてくれる?」  しかし、それから彼がどんなに問い掛けても、ベッドの下から出て来るよう宥めすかしても、少女が返事をすることはなかった。ただじっとミナギを見つめ、唯一返した反応は首を左右に振ることだけである。  とうとうミナギは根負けし、廊下で声を張り上げた。 「誰か来てくれ! 誰かこの女の子のことを知らないか?」  何度目かの呼び掛けののち、一人が彼に気付いてくれた。それから船中に伝達され、手隙の船員たちがバラバラと部屋の前に集まる。
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