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改めて見ると、その少女はかなりの器量よしであることがわかった。
白金色のトゥヘッドに、青い大きな瞳。今は恐怖で見開かれているけれど、白目と黒目ははっきりとしたコントラストを持ち、二重瞼を遮るように睫毛が天を向いている。ふっくらとした幼女らしい輪郭とは対照的に、桃色の唇は綺麗な三日月を描いていた。
「あらら。こりゃあ美人だ」
ジャンルカが腰を屈めて覗き込む。ニカッと笑う武骨な顔は照り付ける太陽を思わせるが、幼い少女には恐怖の対象でしかない。少女はますますきつく鞄を抱き締めた。
「モーリスの隠し子って線は消えたな」
「お? まだ言うか?」
今度はテオドゥロが少女に優しく微笑み掛ける。
「無理矢理してごめんなぁ。痛くなかったか?」
残念ながら、少女にとって髭面はもっと怖い。武骨な太陽と生い茂る髭面に挟まれ、少女はいよいよ泣きそうな顔になる。
「おいおい、泣くな泣くな。やっぱり言葉がわかんねぇと困るなあ……船長はまだか?」
まさに彼らの求めに答えるかのように、足音が廊下の奥から響いてきた。人垣が割れ、藍色の長身がぬっと扉を潜って現れる。
「あ、船長」
〈アヒブドゥニア〉号の船長は船員たちに囲まれながら、首すら動かさないまま目の前の『異物』を見下ろした。
「……なんだこれは」
「なんだ、じゃないですよ。女の子です」
「見ればわかる」
ミナギはムッとしながら事情を説明した。
「――と言うわけで、誰も心当たりがないんです。言葉もわからないみたいで。船長、ちょっとこの子から色々聞き出してもらえませんか?」
船長は青い目をずり動かしてミナギを見た。
「なんで私が」
「だって、あなたは全自動翻訳機搭載してるでしょう」
ミナギはぐいと船長を少女の前に押しやり、退路を塞ぐように彼の後ろに回った。
謎の少女は床にスカートを広げ、怯える瞳で彼を見上げている。船長は遥か高みの長身から威圧的な問いを降らせた。
「……名前は」
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