20.ルチアの親権

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20.ルチアの親権

「カ……ッピターノッ!」  廃倉庫を出た途端、マルコ・マルケシーニは両手を広げて飛び付いた。 「お前つっええぇじゃねえか! そんな腑抜けた顔してるくせに――」 〈アヒブドゥニア〉号の船長は暑苦しい抱擁から身を捩りながら咳き込んだ。ミナギがマルコの襟首を掴んで引き剥がしてくれたので、二度目がないよう十分な距離を取る。 「船長、びしょ濡れじゃないですか。どうしたんですか?」 「溺れさせられそうになっただけだ」 「えっ。すみません、俺たちが駆け付けるのが遅かったばっかりに……見張りの連中を片付けるのに手間取りまして」  マルコが後ろからミナギを押し退け、二人の間に割って入った。 「そうだぞ、クソ眼鏡! てめぇらが最初からスタンバってりゃあ、カピターノはこんな目に遭わずに済んだんだ!」  ミナギは無視して押し退け返す。 「でも、爪を剥ぐとか骨を折るとかじゃなくてよかったですね。早く船を呼び戻して着替えましょう」 「……そのうち乾く」 「カピターノッッッ!」  マルコはどうしても話を聞いてほしいのか、懲りずに船長を羽交い絞めにしようとした。すかさず背後から鉄拳が飛ぶ。  振り返ると、ジャンルカたち別動隊が合流していた。 「なんだこいつ、気色悪いな……船長、さっきそこでロレンツォの手下に出くわしたんで、ブルネッリは引き渡しちまいました。よかったですか?」 「ああ。あとは我々の関知するところではない」  マルコは乱暴にジャンルカの肩に掴み掛った。 「ブルネッリだと? あいつがどうしたんだ?」 「お前は馬鹿だから気付いてなかったみたいだけどな、あいつは最初からロレンツォと内通してたんだよ。だからいつも情報が洩れてたんだ」  マルコはあんぐりと口を開ける。 「は? あの小便ハゲが?」 「そうだよ。その小便ハゲの内通に気付かないお前は、さしずめ大便バ――」  その先を遮るようにミナギが船長を連れて早足になった。 「ロレンツォとの取り決めはあれでよかったんですか? 船長、あんなに悩んでいたのに、結局全部渡してしまいましたけど」 「ああ。あれでいい」  船長は殴り合いを始めたマルコとジャンルカのために足を止めた。 「マルコ」 「んあ?」 「あのペンダントはルチアから受け取ったんだな?」  するとマルコは鼻を擦りながら顔を背けた。 「ふん。あのガキがカピターノを助けに行ってくれってうるさかったからよ。俺だって正義の味方ってガラじゃないが――」 「――ってことは、船長は先にルチアのところに行ってあげた方がよさそうですね。俺も一緒に行きますよ」 「ジャンルカ、先に船に戻っていろ。マルコ、お前は付いてこい」 「無視すんじゃねえ!!!」
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