20.ルチアの親権

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*** 〈サンタ・ディ・ルーチェ〉には灯りが点いていた。ショーウィンドウに三人の影が過った途端、小さな女の子が飛び出してくる。少女は船長の足にしがみ付き、何も言わず顔を埋めた。 「リヴ!」  続いてマダム・オリヴィエ。彼女は厳しい表情をほんの少し緩めると、すぐに一同を店の中へと引き入れた。  二階の客間に腰を下ろし、オリヴィエが淹れた紅茶を啜る。船長にはタオルが提供された。 「――それで、事件は落着したのかい?」 「ああ。もうルチアが追われることはないだろう」  一連の話を聞いたオリヴィエは安堵の溜息を吐いた。きっと心の底から心配してくれていたのだろう。しかし、やはり甘い顔はダメだと思ったのか、すぐに目尻を吊り上げる。 「あんたはいつも無茶ばかりして。連絡を疎かにするのは悪い癖だよ」 「……すまない」 〈アヒブドゥニア〉号の船長は口ではそう言いつつ、何が悪いのか微塵も理解していないようだ。膝に乗せたルチアの髪から埃を取るふりをして目を逸らしている。 「そうだぜ、カピターノ。港に船がないもんだから、てっきり逃げたのかと思ったぞ」  と言うのはマルコ。なぜかすっかり溶け込んだ気になっており、実家のように寛いでいる。それを気にしないオリヴィエも懐が深すぎるが。  船長は何食わぬ顔で答えた。 「あれも保険だ。私が不在にしている間に船を狙われては困る。一次的に沖に出させていた」 「あ? つくづく俺様を信用してねぇんだな!」  マルコが大袈裟に嘆いてみせると、船長は素直に頷いた。 「頷くなよ!」 「警戒していたのはお前に対してだけではない。ルカはお前たち以外にはルチアを乗せた船の名を明かしていないにも関わらず、ロレンツォが〈アヒブドゥニア〉号に辿り着くのがあまりにも早かったことを考えれば、誰かが情報を流していると考えるのが自然だろう。ブルネッリを疑ったのは――」 「……マルコがあまりにも馬鹿だったから」  ミナギがボソリと口を挟む。「あぁん?」とガンを飛ばすマルコを遮って船長は続けた。 「――それもあるが」 「あんのかよ!」
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