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「マルタを発つと告げたとき、外との連絡を望んだのはブルネッリだけだったからだ。あれは逐一ロレンツォに行き先を告げていたのだろう」
マルコはポカンとして船長を見つめ、一拍遅れて怒り始めた。
「そういえば、マルタに行くときも……! あんの小便や――」
「ルチアの前で下品な言葉を使うんじゃないよ」
すかさずオリヴィエがマルコの頭を引っ叩き、船長がルチアの耳を塞いだ。
「それならよぅ、カピターノ。倉庫で待ち伏せさせとけば、お前はロレンツォにいいようにされなくて済んだんじゃねーか?」
マルコは坊主頭を摩りながら唇を尖らせる。船長は小首を傾げて彼を見た。
「私は奇襲を掛けるための囮だ。それに、もしロレンツォが来ることを知らず、お前が時間通りに倉庫に現れたとき、武装した私たちが出迎えたらどう思う?」
「そりゃあ、まあ……裏切られたと思うがな。取引は決裂だ」
「私にはあくまでもお前と取引をするつもりがあったということだ」
「か、カピターノ……」
それがなぜかマルコの琴線に響いたらしく、今度は潤んだ瞳で船長に熱烈な視線を送る。船長の真顔の下でルチアが怯えた表情を浮かべていた。
「しっかしねぇ……マルコ、あんたはこれからどうするんだい? 親父さんの遺産は全部持って行かれちまったんだろう?」
オリヴィエが心配そうに訊ねる。マフィアの若造はボリボリと頭を掻きながら、照れ臭そうに顔を背けた。
「別にどうにでもならぁ。親父の利権なんざ引き継がなくたって、俺様自ら新しい事業を築き上げてやるよ」
「無理だろうな」
「あんだと?!」
船長はミナギに目配せをして何かのファイルを取り出させた。数枚の書類が挟まれたそれをマルコに差し出す。
「取引の続きだ、マルコ・マルケシーニ。お前にサヴェリオの遺産を渡そう。その見返りとして、そこから得た利益の一部をルチアに送ってやってくれ。彼女が平穏に生活を送り、然るべきときに役立てることができるように」
マルコは瞬きを数回してその書類を受け取った。パラパラと捲ってみる。一番上の紙は土地の権利書であった。
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