20.ルチアの親権

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「それをロレンツォに送ればいいんだな?」 『うん。向こうが必要なことをしてお役所に提出すれば、めでたく利権者がルチアからロレンツォに移るはずだよ』 「助かった。恩に着る」  エアロンは受話器の向こうで鼻を鳴らした。 『あんたさ、どんだけ厚着するつもり? そろそろ恩は返してほしいんだけど?』  返している。返しているというか、こちらだって相応の迷惑を掛けられている。  船長は心底そう答えたかったが、これ以上は耳が耐えられないので止む無く言葉を飲み込んだ。 「――というわけだ。ルチアの親権についてはもう心配しなくていい。戸籍上、ルチアはもう孤児ではない」  話を聞いたオリヴィエは物凄い顔をした。明らかに胡散臭がっている。 「リヴ……やっぱりあんたたちって……」 「言うな」  船長は時計を見上げた。 「……そろそろマルコが来る時間か」  そう口にするや否や、表に車が停まる音がした。相変わらず運転が荒い。入店を告げるチャイムが鳴り終わる前に、騒々しい足音と共に濁声が響いた。 「カピターノ? 来てやったぞ」  オリヴィエが更に嫌な顔をする。 「ああ、もう……海賊の次はマフィアの溜まり場になるのかい」 「海賊ではない」 「ヤクザ者なことに違いはないだろ」  マルコ・マルケシーニは満面の笑みで登場した。無邪気な笑みだが元の人相が悪いので、ルチアが思わず船長にしがみ付く。 「チャオ、みなの衆(トゥッティ)。約束の品を持ってきたぜ」  そう言って船長の鼻先に突き付ける家の権利書。  サッと紙面に視線を走らせた船長は怪訝そうに眉を顰めた。 「ナポリ郊外の……マルコ、これは少々大きすぎないか」 「なんだ、俺様の贈り物に文句つける気か? てめぇがルチーアに住むところを用意しろっつったんだろうが」 「だが、少女一人にこれはあまりに広すぎる」  オリヴィエとミナギも興味津々で覗き込む。 「これは豪邸だね」 「維持費が嵩みますよ。大丈夫なんですか?」 「グチグチうるせーんだよ! どうせカピターノたちだって戻ってきたら泊まるんだろうが」
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