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「それをロレンツォに送ればいいんだな?」
『うん。向こうが必要なことをしてお役所に提出すれば、めでたく利権者がルチアからロレンツォに移るはずだよ』
「助かった。恩に着る」
エアロンは受話器の向こうで鼻を鳴らした。
『あんたさ、どんだけ厚着するつもり? そろそろ恩は返してほしいんだけど?』
返している。返しているというか、こちらだって相応の迷惑を掛けられている。
船長は心底そう答えたかったが、これ以上は耳が耐えられないので止む無く言葉を飲み込んだ。
「――というわけだ。ルチアの親権についてはもう心配しなくていい。戸籍上、ルチアはもう孤児ではない」
話を聞いたオリヴィエは物凄い顔をした。明らかに胡散臭がっている。
「リヴ……やっぱりあんたたちって……」
「言うな」
船長は時計を見上げた。
「……そろそろマルコが来る時間か」
そう口にするや否や、表に車が停まる音がした。相変わらず運転が荒い。入店を告げるチャイムが鳴り終わる前に、騒々しい足音と共に濁声が響いた。
「カピターノ? 来てやったぞ」
オリヴィエが更に嫌な顔をする。
「ああ、もう……海賊の次はマフィアの溜まり場になるのかい」
「海賊ではない」
「ヤクザ者なことに違いはないだろ」
マルコ・マルケシーニは満面の笑みで登場した。無邪気な笑みだが元の人相が悪いので、ルチアが思わず船長にしがみ付く。
「チャオ、みなの衆。約束の品を持ってきたぜ」
そう言って船長の鼻先に突き付ける家の権利書。
サッと紙面に視線を走らせた船長は怪訝そうに眉を顰めた。
「ナポリ郊外の……マルコ、これは少々大きすぎないか」
「なんだ、俺様の贈り物に文句つける気か? てめぇがルチーアに住むところを用意しろっつったんだろうが」
「だが、少女一人にこれはあまりに広すぎる」
オリヴィエとミナギも興味津々で覗き込む。
「これは豪邸だね」
「維持費が嵩みますよ。大丈夫なんですか?」
「グチグチうるせーんだよ! どうせカピターノたちだって戻ってきたら泊まるんだろうが」
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