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「死体を探すため、だけど」  答えて目を丸くする英司。それが、驚いた表情を見せてしまった俺のせいであることは、さすがに戸惑いの最中にいる俺でも分かった。それでも、落としたかけた氷嚢を持ち直しながら、もう片方の手で自分の頭を押さえてしまった。 「頭痛いのか? 大丈夫か?」 「あ、いや。大丈夫だ。何ともない」  英司に心配そうな顔をされて、慌てて手を離す。英司には、こんな姿をあまり見せないようにしていた分、何だか恥ずかしくて仕方ない。  だからだろうか、判断力が鈍った。気になったことを聞いてしまうことにしていた。 「昨日、校庭でサッカーしてたのも、死体を探すためか?」 「何だ、見てたのか! そうだ。走り回ってみて、地面を感じたら何か分かるかなぁと思ってさ」  英司の、何でもやってみよう精神は、馬鹿で予想もつかないことがあるってことは分かっていた。それなのに、自分の勘違いに気付かなかった。どうしてか、悔しいと思った。 「鈴原さんに手伝いを頼んだのも、何か理由があるのか?」  わずかに肩を揺らし、一瞬目を見開き、ほのかに顔を赤らめる。それが意味するものは、全く想像がつかない。 「り、理由はあるけど。でも、言えない。俺からは話せない」 「そうか」  英司にしては珍しい曖昧な返答は、やっぱり気になったが、英司は下手に刺激すると、話せないという秘密をぶちまけてしまうところがある。聞きたくもないことを聞いたこともある。だから、追求しないことにした。  それに、最後にもう一つ、どうしても聞きたいことがあった。 「それで、死体を探し出してまで叶えたいことって、結局何なんだ?」  聞いてほしかったのか、英司は殴られたことなんて忘れたかのように、少し大袈裟なくらい、とても嬉しそうに笑った。だからいつも通り、身体から毒気が抜けていった。 「俺、昔からいつもヒーローに助けてもらってるだろ。だからどうしても、ヒーローの願いを叶えたかったんだ!」  眩し過ぎる笑顔を直視するのは難しく、しゃがみ込んでしまいたくなった。それを許さなかったのは冷たすぎる氷嚢の存在で、そうなったのは自分のせいでもあることに気付かされると、罪悪感に胸が締め付けられた。  付き合いきれない、なんて言わなければ良かった。 「ヒーロー?」  英司が俺を呼ぶ。ヒーロー、だと呼んでくれる。 『ひろきだからヒーロー』  昔、幼い英司がそう言った。  子どもの頃は、本当に胸が躍るくらい嬉しかった。英司がヒーローと呼んでくれる度、本当のヒーローになれたみたいで、不格好で情けない姿を見せないために強くなれた。どこからかやってきた野良犬にも立ち向かえたし、英司の前では苦手なカレーだって食べた。  それなのに、いつからか騒がしい日常を運んでくる英司のことを疎ましく思った。英司との日常とは真逆の平穏を望んだ。だけど、それでも英司に付き合ってきたなら、本当はそうじゃないんだ。 「悪かった」 「ん? 何がだ?」 「いや、何でもないさ」  英司は知らなくていい。知らなくても、謝りたいと思った。  当てつけのように平穏を望んだことを。勝手に突き放そうとしたことを。困った人を放っておけない優しい英司を心配して、英司のことを悪く言ったことを。 「ありがとな」 「ん? 何だって?」  伝えたくて、だけど恥ずかしくて呟いた言葉は、英司に届かなかった。  英司のおかげで見つかった。あの疑問の答えが。  本当は、どんなに面倒でも、英司との楽しくて仕方ない日常を手放したくなかった。英司のことは嫌いなんかじゃなかった。  だから、巻き込まれることをいつも受け入れていた。 「死体探しは続けるのか?」 「あぁ、もちろん!」  英司は元気よく答え、幼い頃と変わらない無邪気な笑顔を見せた。
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