1/1
前へ
/6ページ
次へ

「ヒーロー! 死体探ししよう!」  朝にも関わらず、俺の机を勝手に使って弁当を食べていた井上(いのうえ)が、ブフっと、汚らしく吹き出した。そんな井上を視界の端に入れながら、俺はまた平穏が壊れた音に頭が痛くなった。  仕方なく、一先ず話だけでも聞くために重い腰を上げれば、井上はケラケラと楽しそうに笑った。睨み付けるだけで溜息は堪え、教室の出入り口で興奮を隠し切きれずに身体を揺らす英司(えいし)の元に向かう。  とても嬉しそうに俺を見上げる英司に、まずは廊下を走ってきたことを軽く注意しようと口を開いたが、英司の方が先に声を発した。 「死体探しをしようと思うんだ! 詳しいことは昼休み、図書室で教えるつもりだ。手伝いを頼んだ子、えっとそうだな、小さくてリスみたいな可愛い子も来るから、それじゃあまた!」  そう早口で捲し立てた英司は、また走り出した。その背に「廊下は走るな。危ないぞ」と少し大きな声で注意すると、英司はピタリと動きを止めて、今度は早足で歩いていった。  幼馴染の姿が見えなくなってから、俺はその場でしゃがみ込み、頭を抱える。後方から聞こえてくる友人の大きな笑い声に、我慢できず深い深い溜息を吐いた。  あぁ、平穏が恋しい。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加