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若くして僕は死んで、死後の世界の長い道を通り抜け、天国にたどりついた。
そこまでは良かった。
しかし晴れて正式な天国の住民になるために、滞在許可証が必要だとはまったく知らなかった。
そしてそれを天国の役所から手に入れることが、こんなに大変だということも。
またそれを手に入れるための争いが、こんなに醜いものだということも。
僕は今、収容所の中から恨めしい目でじっと窓の外を見ている。
窓の外は、まさに天国の名に恥じない素晴らしい世界。
美しい建物がたちならぶ美しい街路に、美しく着飾った人々、美しい高級車が行きかう。
それは生前訪れたこともない、ヨーロッパの富裕層が住むような街の景色。モナコやカンヌなんかが、もしかしたらこんな感じなのかもしれない。
誰もが幸せそうで、金に困ることもなく、治安もいい。まさに天国だ。
それにひきかえ。
僕は窓から顔を離して、収容所の中をぐるりと見渡す。
ここはまるで、大災害の避難所さながらだ。
暗い体育館のような建物に無造作につめこまれた多くの人々が、毛布にくるまったままうずくまっている。
しかし目だけは皆、鋭く光らせたまま。
僕らは長い死者の道を通り抜け、天国行きと地獄行きとをおおざっぱに分ける最初の役所をくぐって、安心したのもつかの間、ここに放り込まれたのだ。
そして、僕らは知らされた。
僕らはじっと、待たなければならない。
役所から、滞在許可証が発行されることを。
この美しい世界の一員となるために。
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