街へ

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しばらく二人は押し黙って、もう遺骸になってしまった男の体を見つめていた。まるでその体から男の魂が天に召されていくのを見守りでもするように。女は喪心したように全く無表情だったが、悪魔の方は元々青白かった顔を一層真っ青にしてぶるぶる震えていた。 悪魔はこれまでの善行を全て台無しにしてしまったのだ。 すると、女はいきなりにあははははは!と金切声のような笑い声をあげ始めた。 「ど……どうされまして……?」 悪魔は突然のことに驚いて、びくびくしならがらそう尋ねた。 「あはははは!あぁ、あなた本当にとんでもないことをやってくれたわね。ふぅ、だけどなんだか清々したわ。こいつが死んで心底清々したわ。そう、なるほど。やっぱり悪魔だわね。人を殺すこともできるってわけね。これは面白いことが知れたわ」 「い……いえ……決してわざとやったわけでは……。本当に事故で……あぁなんてことを……」 悪魔はひどいショックのためにすっかり力が抜けてしまって、床にへばりつくように倒れこんだ。 その目からは青色の液体が涙のようにどくどく流れ出した。 そうしてそのために身体中の水分が抜けて悪魔の体は三分の一くらいの大きさに縮んでしまった。また、皮膚が干からびたようにシナシナになってしまったので前よりもより一層不気味に見える。 ただそれでも、あのコウモリのような羽だけは縮むことなく元の大きさのままであった。 女は悪魔のことなど気にもとめず、玄関の方まで歩いていって靴を履き始めた。 「……ど……どちらへ……む……向かわれるので……?」 「街へ行くのよ。今度こそ私に相応しい誠実な結婚相手を見つけるんだから」 「は……左様ですか……」 「何言ってるのよ。あんたも来るのよ。ちゃんと弓矢を持ってね」 女は部屋の隅に落ちている悪魔の方までやって来てその羽を掴んだかと思うと、そのままずるずる引きずりながら街の方へ歩いて行った。
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