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「私はですね、キューピッドですよ。この弓で心臓を撃たれた者は誰でもあなたの虜になりますよ」
余りにも突拍子のない話だが、確かにそう言われてみると、男にはどこか人間離れした雰囲気がないことはなかった。
「ふうん。キューピッドねぇ……。だけど、そんな上手い話があるかな」
女は訝しげに男の様子をジロジロ観察した。
キューピッドがこんなところにいるものだろうか。
それに何だか見た目がそんなふうではないように思われた。
男の後ろの方へ回りこんでみると、男の背中にはコウモリのような黒い羽がついていた。
「なあに。これ」
その怪しげな羽を手で引っ張ってみると男は悲鳴のような声をあげた。
「ああ!それをあまり引っ張らないでください」
「なんか怪しいな。キューピッドってこんな黒い羽がついているものだったっけ。そう、どちらかって言うと悪魔って感じがするんだけど」
そう言って男の不気味に青白い顔を覗き込むと、なるほどやはり悪魔という方がしっくりくる気がした。
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