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「ほんと、誰がこんな風になるって想像できたよ?」
2年前の夏。
解けた靴紐の真っ赤なコンバースを履いた彼女がこの島に訪れてから、瀬戸内海にひっそりと浮かぶ僕たちの小さなこの島が大改革をスタートさせたのは誰の目にも明らかだった。
「誠司に同感。祥太郎もそう思うでしょ?」
沙希が誠司の肩越しに、小さな顔を覗かせて僕に視線を寄越す。
「うーん、そうだな。美術館って結構人気なんだなって驚いた」
「違う違う、美術館じゃなくてギャラリー併設のカフェ!」
得意気に人差し指を立てる沙希に、隣の誠司が眉を顰める。
「どっちも似たようなもんだろ」
「はあー、残念。違いの分かんない男はモテないよ、誠司氏。美術館とギャラリーは全然違うんだから。ね、ミチルさん」
沙希が目を向けた先、カウンターの向こう側で微笑む彼女、古坂ミチルがこの島でオープンした美術館ともギャラリー併設のカフェとも言える不思議なこの店は、月替わりで展示される新進気鋭の若手アーティスト作品で埋め尽くされている。
そして店を訪れたファンがSNSで投稿したことを機に、作品目当てに島を訪れる観光客が増えはじめた。
やがて田舎暮らしを夢見る芸術家や、若手アーティストの活動をバックアップする企業が訪れるようになり、ついには現代アートによる地域復興に取り組む財団の協力により、行政や地元住民協力のもと、島全体が大掛かりなアート観光業に乗り出した。
「うーん……惜しいけど、どっちも不正解だね」
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