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「まさかミチルさんが私たちの島の出身だったとはね〜」
昨日、ミチルさんが島で生まれ、高校まで過ごしていたことを初めて知った。彼女が高校を卒業した年に、生徒数減少により隣島の高校と統合になり、島の高校が廃校になったのだそうだ。
高校最後のマラソン大会の今日、僕たちはのんびり潮風を感じながら、散歩でもするようにゴールを目指していた。
特に海岸沿いの険しい急勾配が有名なので、僕たちも歴代の卒業生に倣い、真面目に走るわけでも棄権するわけでもなく、実に有意義な有酸素運動を楽しんでいた。
「島の高校が廃校になったのが8年前だから、ミチルさんの年齢は26か」
ジャージのポケットに両手を突っ込んだまま、隣の誠司が意味深な笑みを浮かべる。
「えー、年齢逆算するとか最低なんですけど」
誠司の隣で沙希が不快そうに眉根を寄せる。
「いやいや、そう言うんじゃなくて」
「はあ? ではどう言う意味だと?」
「ワンチャンありかなーと」
「は?」
「年齢差、俺は許容範囲だし」
「え、は? マジ?」
「まあ……結構前から気になってて」
「えっ、ええぇーー!! 祥太郎聴いた!? 誠司氏が色気づいてる! きもーい!!」
「ひでーな」
「あははは」
沙希と誠司が戯れている横で、僕は快晴の夏空に笑い声をあげた。
僕たちの島にまだ高校が存在していた8年前。
ミチルさんが見ていた島の景色は、今とどれくらい違うのだろうか。
こうして僕たちがフェリーで隣島の高校に通うようになった今も、島唯一の小学校は廃校が決まったらしい。島での生活は子育て世帯には、益々厳しいものとなるだろう。
ミチルさんが言ったように、そんな現実を食い止めることが出来たら………───。
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