ヘンリーのポケット

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ヘンリーのポケット

 朝起きたら、猫みたいな耳になっていた・・・。  神様はいるらしい。  そして願いを叶えてくれるらしい。  ただ、願いを叶えるのなら、私なんかじゃなく、もっと助けが必要な人の願いを叶えてあげたらいいのに・・・。  しかも、こんなバカな願いを・・・。  神様は無慈悲だ。  確かに私は昨日、「猫みたいな耳が欲しい」と言った。「猫耳」がかわいいと思っているのが事実だけれど、さすがに頭の上に猫耳が付いていては何かと不便だから「猫みたいな耳」と言ったのだ。  当たり前だけれど、酔っていた。それはもうしこたま飲んでいたので、「猫耳が欲しい!」というよりは「あっしは~、猫みたいな耳が~、欲しいのら~」くらいの感じで聞いてくれないと困る。  確かに「叶えてしんぜよう」という声も聞いた。当然の流れでとなりのよっちゃんの声だと思った。もしかしたら神様はよっちゃんの体を借り、よっちゃんの声で言ったのかもしれないが、そうするとそれはもうよっちゃんの発言なのだ。それがどれほどのデメリットを生むか考えてほしい。  例えば神様がよっちゃんの体を借り、「わしは神様なのだ」と宣ったとしよう。聞いている私たちはよっちゃんが言っているようにしか見えない、というかよっちゃんが言っている。でもよっちゃん的には神様にハイジャックされ、言わされているのだから自分の発言ではない。  結果、「言った言わない」にしかならないし、神様が乗り移って言うことなんて基本的に厨二的発言なんだから、最終的にその発言は誰にも信じてもらえず、よっちゃんが厨二こじらせガールになるだけで、誰も救われないのだ。  話を戻す。  そんなテキトーな流れで叶えられた願いが「猫みたいな耳が欲しい」なのである。テキトーな願いを叶える時はやっぱりテキトーらしい。  今、私の耳は猫並みの聴覚を得たわけでもなければ、猫のような触り心地のいい(猫的には触られるのはいやかもしれないけれど)耳になったわけでもない。  何が変わったかと言えば・・・。  「ヘンリーのポケット」が出来た。  猫耳の付け根にある、小さなポケットみたいなアレだ。猫の絵を描く時、真っ先に省略されるアレだ。知らない人も多いし、知っている人でも名前までは知らないアレだ。  それが私の耳の付け根にある。  神様の贈り物じゃなかったらこれが何か分からず、でもなんだか怖いので整形外科か耳鼻科に行くだけだっただろうけど、そこはさすがに神様だ。触った瞬間、それだと分かった。分かったが、それがなに?!    ちなみに、ヘンリーのポケットは何のためにある器官かは分からない。折りたたむ時に便利、という話を聞くが、私は耳を折りたたもうと思ったことはないし、どういう状況で人間が耳を折りたたもうと思うのかも分からない。今後折りたたむ予定もない。  変わったことはひとつ。  思いのほか、垢が溜まりやすい。  他には何もない。  いつか神様に出会ったら、ぶん殴ってやろうと思う。その時神様がよっちゃんの体をハイジャックしていなければいいのだけれど。
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