ーー 1 ーー

1/2
前へ
/13ページ
次へ

ーー 1 ーー

 魔法使いと一緒に仕事をしていると、たまに『当たり前』というものがわからなくなってくる。非常識な存在と一緒に行動することが多いからかもしれないが、いつしか本当に大変なことが起きたとき、自分は正常な判断が取れないのではないかと心配になってしまう。  ゴミを捨てに資材倉庫に行ったら、猫が入った段ボールが置かれていた。  そんなことがあったというのに、僕は「これじゃゴミ台車を中に入れられないじゃんか」としか思わなかった。入口に眞光と台車を待たせ、一抱えもある段ボールを横に移動させる。段ボールの上部にはネズミ返しがつけられており、簡単には外に出れないようになっていた。中には、猫用のミルクやトイレなどが一通り入っているおり、中の猫はなんだか窮屈そうだった。  移動させているとき、カサ、となにかを踏んだ。A4の紙だった。段ボールの側面に貼り付けられていたものが取れてしまったのだろう。僕が捨てたと疑われるのも嫌なので。小さく折ってポケットにしまうと、眞光に向き直った。 「もういいよ。ゆっくり押してきてね、そこ。段差があるから」 「ああ、了解。あのさ」 「資材課の人はまだいないみたいだね。先に紙ごみとかは捨てちゃおうか」 「そうだな。……というか」 「眞光はプラスチックゴミを捨てて。場所はわかるでしょ?」 「わかる。てかさ」 「なに? さっきから」  眞光が人差し指を立てて、それから横に倒した。 「猫がいる」 「だね。知ってるよ、僕が避けたんだし」 「うん、だから、猫がいるんだ」 「だから知ってるって」  会話がどうもかみ合わない。しばしの沈黙のあと、眞光がさらに質問を重ねる。 「なんでいるんだ?」 「なんでってそりゃあ………………………………………………なんでだろう」  静まり返る空間に、猫の鳴き声がひとつ響く。そこでようやく、僕の頭は異常に気が付いたようだった。 「眞光、大変だ! 会社に猫が捨てられてる」 「……だから最初からそう言ってんじゃん」 「なんでそんな冷静でいられるのさ、ゴミ捨てはあとでいいから早く山尾先輩呼んできてよ! 僕はここで猫を見張ってるから」 「はいはい、わかったニャー」  ワープ。そういって消えた彼を見届けたあと、段ボールを覗き込む。猫はウロウロを中を歩き周り、急に現れた人間に怯えているようだった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加