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魔法使いと一緒に仕事をしていると、たまに『当たり前』というものがわからなくなってくる。非常識な存在と一緒に行動することが多いからかもしれないが、いつしか本当に大変なことが起きたとき、自分は正常な判断が取れないのではないかと心配になってしまう。
ゴミを捨てに資材倉庫に行ったら、猫が入った段ボールが置かれていた。
そんなことがあったというのに、僕は「これじゃゴミ台車を中に入れられないじゃんか」としか思わなかった。入口に眞光と台車を待たせ、一抱えもある段ボールを横に移動させる。段ボールの上部にはネズミ返しがつけられており、簡単には外に出れないようになっていた。中には、猫用のミルクやトイレなどが一通り入っているおり、中の猫はなんだか窮屈そうだった。
移動させているとき、カサ、となにかを踏んだ。A4の紙だった。段ボールの側面に貼り付けられていたものが取れてしまったのだろう。僕が捨てたと疑われるのも嫌なので。小さく折ってポケットにしまうと、眞光に向き直った。
「もういいよ。ゆっくり押してきてね、そこ。段差があるから」
「ああ、了解。あのさ」
「資材課の人はまだいないみたいだね。先に紙ごみとかは捨てちゃおうか」
「そうだな。……というか」
「眞光はプラスチックゴミを捨てて。場所はわかるでしょ?」
「わかる。てかさ」
「なに? さっきから」
眞光が人差し指を立てて、それから横に倒した。
「猫がいる」
「だね。知ってるよ、僕が避けたんだし」
「うん、だから、猫がいるんだ」
「だから知ってるって」
会話がどうもかみ合わない。しばしの沈黙のあと、眞光がさらに質問を重ねる。
「なんでいるんだ?」
「なんでってそりゃあ………………………………………………なんでだろう」
静まり返る空間に、猫の鳴き声がひとつ響く。そこでようやく、僕の頭は異常に気が付いたようだった。
「眞光、大変だ! 会社に猫が捨てられてる」
「……だから最初からそう言ってんじゃん」
「なんでそんな冷静でいられるのさ、ゴミ捨てはあとでいいから早く山尾先輩呼んできてよ! 僕はここで猫を見張ってるから」
「はいはい、わかったニャー」
ワープ。そういって消えた彼を見届けたあと、段ボールを覗き込む。猫はウロウロを中を歩き周り、急に現れた人間に怯えているようだった。
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