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とにかく警戒するに越したことはない。スマホを見つけ、動画を確認すれば犯人の顔ははっきりするのだ。それまでは油断しないでおこう。
あれこれ考えながら探すうちに見つけた。俺のスマホだ。
声をあげそうになるところをすんでのところで堪えた。もしもこの警官が殺人犯だった場合のことを考えれば、それは秘密にしておくほうが得策に思えたからだ。
ちらりと警官のほうを見る。ちょうどこちらに背中を向けていた。
すばやく拾い、ポケットに突っ込んだ。気づかれた様子はない。
そのまましばらく探すふりを続けてから腰を伸ばした。
「えっと、すみません、おまわりさん」
「どうしました?」とこちらを見る。
「そろそろ会社に行かなきゃならないので、もう携帯は諦めます。もしかしたらここで落としたのじゃないかもしれないし」
「そうですか。じゃあ、遺失物届けを出しておきますか?」
「いや、結構です。安いスマホだし、ちょうど買い換えようかと思っていたところでしたから」
そのときだ。間の悪いことに誰かが俺にメッセージを寄越したのだ。ポケットの中で着信を告げる音が短く鳴った。
警官が怪訝な顔で俺を見る。
次の瞬間、俺は駆け出していた。
「あ、待ちなさい」という警官の声も無視してひたすら走る。
あとをつけられないよう何度も角を曲がってから自分のアパートに戻った。後ろ手でドアに鍵をかけてから、ポケットのスマホを取り出し、例の動画ファイルを呼び出した。
それを再生しようとしたところで、背後のドアがノックされた。恐る恐るドアスコープから覗くとスーツ姿の男が立っていた。30代後半といった感じだ。
ドア越しに「どちら様でしょうか?」と訊ねた。すると男の声が聞こえてくる。
「私、W県警捜査一課の大西と申します。ちょっとお話を伺いたいのですが、開けてもらえませんでしょうか?」
スーツに着替え、目撃者が住むアパートに戻ったのはちょうど夜が明けた頃だった。目立たない場所で張り込んでいると、おどおどした様子の男が出てきた。間違いない。彼だ。
あたりを伺いながら歩き出した男の後を、距離を保って尾行する。
男は空き地に入ると、生え放題の雑草を掻き分け始めた。なにか探しものでもしているようだ。
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