警察官

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 私と彼の他には誰もいない。話を聞くチャンスだと考え、一歩足を踏み出したところで思いとどまった。道路の先から自転車にまたがった警察官がやってくるのが見えた。彼は空き地で右往左往する男に気づき、声をかけた。  何事か会話をしたあと、その警察官も一緒になって草むらをかき回し始めた。  しばらく二人を観察していると、男の様子に変化が生じた。警察官のほうを気にする仕草を見せてから、拾い上げたなにかをすばやくポケットに入れた。  再び男が警察官と会話を始める。そのとき男のポケットで着信音が鳴った。どうやら拾ったのはスマホのようだ。  一瞬気まずい空気が流れたように思えた。その直後男が急に走り出した。警察官が呼び止めるのも無視してそのまま走り去った。  男は遠回りしながらアパートに戻り、自室に飛び込んだ。  人目がないことを確認してからそのドアに近づきノックする。 「どちら様でしょうか?」  ドアの向こうから男の声が聞こえた。 「私、W県警捜査一課の大西と申します。ちょっとお話を伺いたいのですが、開けてもらえませんでしょうか?」  身分証とバッジを見えるように掲げると、少しだけドアが開き、男が顔を見せた。 「朝早く申し訳ありません。捜査にご協力願いたいと思いまして」 「捜査?何か事件でも?」 「はい。本日未明に、この近くで殺人事件が発生しましてね。それで、なにか見たり聞いたりしていないかと、近所の方々に聞き込みをしているところなんです。今のところ、犯人は警察官の制服を着用していたということぐらいしかわかっていないんですが、何か心当たりはありませんか?」  男は困惑したような表情で少し考えてから、 「あの、制服を着用していた、と言うことは、警官じゃないんですか?」 「そうですね。制服を着ていたからと言って警察官とは限りません。今は闇サイトで警察グッズが販売されていますからね。偽物から始まって、本物と称するものまで」  すると男は納得がいったという風に数度肯いた。  その表情から察するに、事件に関することをなにか知っていることは明白に思えた。
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